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集音路渉 花守り日誌【毎金更新中】  作者: つきや
第二章 暴れる空き地

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エピローグ

【久野嶋市郊外・旧療養施設跡地西側空き地における異常植生に関する調査報告】


調査対象地:久野嶋市郊外・旧療養施設跡地西側空き地

調査期間:2025年5月〜7月

調査実施者:集音路 渉、桃木 颯汰(東京環境生態大学 植物生態学研究室)


1.調査概要

当該地では、ナズナ、ハルジオンを中心とした草本類の異常な繁茂が確認された。

地元住民より「金属音のような耳鳴り」「圧迫感」「吐き気」といった感覚異常の報告が複数寄せられていたことから、環境汚染または有害植物による影響を疑い、植物生態的・化学的双方の観点から調査を実施。


2.調査結果(改訂版)

土壌分析・大気中成分の検出結果:有害物質・化学的汚染は確認されなかった。

植物群の状態:一部草本類において密集と異常成長が見られ、周囲の感覚異常との因果関係が示唆された。

地中構造物の発見と影響:

 - 旧井戸跡より密閉された木箱状構造物を摘出。

 - 安全確認後に開封したが、内部には何も確認されなかった。

 - 摘出後、当該地における異常繁茂および感覚異常の報告は消失。

 - 調査機器による数値変化は検出されなかったが、視覚的・体感的には植生状態が急激に沈静化した。

3.考察(改訂版)

本現象は、従来の植物生態学的知見では説明困難な事例である。

発見された木箱との関連は明言できないものの、当該構造物の摘出を境に症状が急速に収束したことから、何らかの因果関係が存在する可能性がある。

ただし、化学的・放射線的・磁場的観測値においては異常を検出しておらず、科学的な説明には限界がある。


4.結論と今後の対応(改訂版)

本事象は、不定要因に起因する局所的な生態系異常と見られるが、その性質上、原因の特定には至っていない。

植物の異常繁茂および住民の感覚異常は、対象構造物の摘出をもって解消されたことから、現在は安定状態と判断する。


推奨される対応:


周辺地域住民への報告および啓発の実施

対象地の土地利用における安全基準の再設定

半年後および1年後を目処とした再調査および植生モニタリングの実施



 午後の柔らかな光が差し込む研究室で、渉はパソコンの画面に表示された報告書を見つめていた。


「……これでいいかな」


 自分の指が淡々と打ち込んだ文字を追いながらも、心の奥底では複雑な思いが渦巻く。


「フウのことは書きません。もし知られたら、あの子は実験体にされてしまうかもしれない……」


 横で柳教授が静かに頷く。


「それが、現実的な最善策だと私も思います」


 渉は深く息を吸い込み、最後の一行を入力した。


 “地域住民の安全と環境の保全に努める”


 画面の光に映る自分の顔は、決意と責任感に満ちていた。


 *


【個人調査ノート|久野嶋市郊外案件】


記録者:集音路 渉

記録日:2025年7月某日

※本メモは植物庁への提出対象外である。


1.概要

久野嶋市郊外、旧療養施設跡地西側にて確認された異常植生案件。

初動段階では、環境汚染や外来種の繁殖が疑われたが、物理的な原因は特定されず。

調査中、異常に反応する植物の「発している声(振動)」に違和感を覚える。植物が訴えている内容は、恐怖と混乱、そして「何かが目覚めようとしている」という予兆。


2.特記事項(※非公開扱い)

地中から回収された木箱について

・外見は古く、密閉されていたが内部には何も入っていなかった。

・にもかかわらず、この箱を掘り出した時点で、異常植生は急速に収束した。

・この事実だけで見れば、「空の箱に影響がある」と結論づけることは非科学的だが、植物の声(反応)も同時に静まった点は無視できない。

 

「彼女」との遭遇

この調査をきっかけに、地中に長らく存在していたと思われる種子状の存在と接触。

ピンポン玉ほどの大きさで、深い赤褐色の殻を持ち、どこか心臓を思わせる形状をしていた。


彼女は自ら名を名乗ることはなく、「フウ」という呼称は、研究室内での通称として桃木颯汰が提案し、自然に定着した。本人もその名に対して拒絶的な態度は見せておらず、以後はそのように呼んでいる。


コミュニケーション手段は、

・人語に近い音声での発声

・意識への直接干渉(心の内に響く声)

の両方が確認されており、状況や彼女の意思によって切り替えられている可能性がある。


また、柳教授は彼女との接触を聞いた際、動揺こそ見せなかったものの、

過去に同種と思われる植物と遭遇した経験があることをほのめかしている。詳細は語られていないが、

「再び現れたのか」といった発言があったため、教授にとっても特別な意味を持つ存在であることが推察される。

 

フウについて

 分類不明。既知の植物生態の範疇には収まらず、記憶樹種(仮称)という独自分類を仮設定。

 ・環境により姿を変える(基本形:赤褐色の殻を持つピンポン玉サイズの種子)

 ・強い知性と感情を持ち、記憶(もしくは記録)機能を保持

 ・明確な意思を持ち、私のそばにいることを希望した

 ・柳教授より、当面は私の監督下に置くことを提案され了承

 

3.倫理的懸念

フウのような存在が植物庁に正式に報告された場合、「知的植物」あるいは「特殊生態系サンプル」として管理対象になる可能性が高い。

その扱いは、「生物資源」または「実験体」となるおそれがある。

彼女の人格・自意識を尊重する立場から、現時点では彼女の存在に関する詳細は一切報告していない。


4.今後の課題

フウの出自と目的の調査(彼女自身、過去の記憶は断片的)

記憶樹種としての機能と影響範囲の特定

今回の異常植生との因果関係の解明(関連性は高いが不確定要素が多い)

精霊植物および封印種に関する文献整理と照合(柳教授と協力予定)

 

5.備考

桃木颯汰は、私よりも先にフウの存在に気づいていた節がある。

柳教授もまた、言葉にこそ出さないが、彼女の正体について何かを知っている様子。

これは個人調査の範疇を超えている。今後、研究室レベルでの慎重な共有が必要になる。



 第二章 終

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