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指が止まることはない。爪がわずかに革の縫い目を引っかけ、爪の先端が少し削られ、白く粉を吹く。その粉すら革の上に落ち、指でなぞられて吸い込まれる。革が指を、指が革を、互いに削り合い、すり減らし、馴染ませていく。指の節の溝に革の匂いが染み込み、掌の皺に糸の蝋の感触が残り、爪の間には革の微細な繊維が詰まる。全てがその場に沈み込む。空気の重さすら、革の重みと一緒に机に沈んでいく。
指が革の端を折り返し、縁を爪の背で強く押し締める。爪がきしみ、革が軋む。指の力が増し、関節がわずかに震え、皮膚が白くなり、指の先が痺れる。それでも押し込む。何度も、何度も。折り目が深く、確かな影を帯びてくる。革が折られ、曲げられ、引き伸ばされ、再び押し込まれ、折り畳まれる。繰り返し、繰り返し、果てのない動きが続く。
時折、指が止まり、息がわずかに吐かれる。微かに湿った息が革の表面に降り、曇りとなり、指がその曇りをすぐに拭い取る。指の腹が革の表面に吸い付くように滑り、熱が移り、革がわずかに温もりを帯びる。革の中に閉じ込められた獣の鼓動が、指先から伝わる鼓動と重なり、微かに共鳴するような錯覚を生む。指が叩く。軽く、重く、また軽く。トン、トン、トン…。響きは革を通じて机に伝わり、木の繊維が震え、空間全体に音が満ちていく。
針が再び持ち上げられ、革の中に沈む。針が貫通するたび、革の内部の繊維がきしみ、わずかな裂ける音が耳の奥に響く。スゥ…ッ。スゥ…ッ。針が引き抜かれ、糸が引き締められ、革が糸に寄り添い、縫い目がまたひとつ生まれる。指が糸を引く力加減をわずかに調整し、糸が沈む角度を変え、縫い目の表情を整える。すべての縫い目が、革の上で無数の点として輝き、光をわずかに反射し、指がそれをなぞり、確かめ、撫でる。
縫い終えた縁が手のひらに包まれる。掌の中でわずかに曲げられ、折り畳まれ、しなる感触が指の腹に広がる。革が持つ張り、弾力、湿り気、そして温度。指がそれを感じ取り、わずかに唇が開き、呼吸が深くなる。息が吐かれ、その息が再び革に降り注ぎ、また指がなぞり、触れ、押し込み、撫でる。
机の上のブックカバーは、既にただの物ではなく、時間そのものであった。
無数の指の動きが、無数の呼吸が、無数の針の通り道が、革に染み込み、縫い目に刻まれ、糸に絡まり、革の表面に影として残る。革の香りは、空間全体に充満し、針と糸と刃と手の匂いが混じり合い、空気がわずかに重く、粘り気を帯びたようになる。
だが、それでも指は止まらない。繰り返し、繰り返し、繰り返し、指が革を撫で、押し、折り、確かめ、また撫でる。その動きの中に、言葉にならない想いが染み出し、指先から革へ、革から空気へ、そしてまた指先へと循環していく。
完成などは訪れない。ただ、革がそこにある。手がそこにある。呼吸が、息が、鼓動が、微かな音が、繰り返される。終わりはなく、ただ指と革の間で、時だけが無限に折り重なり、深く、重く、そして静かに流れていくのだった。