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8 リディア、危うく溺死させる。


 とりあえず、クラゲの攻撃をただ一人回避し続けた幼女に舞台まで上がってきてもらった。彼女は自らをシェリーンと名乗る。

 どうやら貴族ではなく平民家庭の子のようだ。しかも、服装から察するに平民の中でも生活に困窮している層か。


 緊張した面持ちのシェリーンさんに私はゆっくりと近付く。


「どうして騎士団にいるのか、よければ事情を話してください……」

「は、はい、私の家は父がおらず、母と五人の子供だけで暮らしていまして、私はその長女なんです」


 もう家族構成を聞いただけで大体の事情は察することができた。幼いながらも家族のために賃金のいい騎士団の従者になった、といったところだろう。

 話を聞いていくとその通りだった。ちなみに、年齢は私の見立て通り十歳とのこと。

 次いで、彼女の保持している魔力について尋ねてみた。

 一年前に騎士団に入ってから、見様見真似で騎士達の修練を実践していたらしい。魔力のおかげで仕事と家事を両立できるようになったのだとか。


 ……十歳にして結構な苦労人で、かつ問題解決の能力もある。あと気になるのはやはり……。


「本気の魔力を、今ここで纏ってみてくれませんか……?」


 私の求めに応じてシェリーンさんは内から引き出した魔力で全身を覆った。


 おお、たった一年の、しかも独学の修練でこの量か。思った通り素質は充分だ。騎士団を預けるに値する人材だし、何より彼女が団長なら私は全く緊張せずに済む! 幼女ゆえに!


 さらに一歩、私はシェリーンさんに歩み寄った。


「シェリーンさん、このコルフォード騎士団の団長をやってみませんか……?」

「わ! 私が団長ですか! 騎士にもなっていないのにいきなりすぎるのですが!」

「お給料は、最低でも今の二十倍……」

「ぜひやらせてください、女王様」


 幼女はお金に釣られて即答していた。

 ふむ、欲望に正直なところなんかも実に私と気が合いそうだ。

 しかし、当然ながらこの決定に異論を唱える者が。アルベルトが慌てた様子で私とシェリーンさんの間に入ってきた。


「従者から急に騎士団団長に抜擢するのはさすがに無理があります!」

「えーと、じゃあまず今日のところは騎士に、明日は小隊長に、明後日は師団長に、明々後日で騎士団団長に昇格させる方向で……」

「……スピード出世にも程がありますよ。小隊長から師団長の間、すっ飛ばしすぎですし(預かる人数が一気に百倍以上になってます)」

「アルベルトだって親衛隊隊長には異例の出世だったのに……、他人に対しては厳しいな……」


 私がジトッとした眼差しでそう言うと、彼はため息をつきながら「この役は俺じゃないと務まらないでしょう」と返してきた。確かにその通りだ。そもそも、他の人じゃ無理、とごねて押し通したのは私だった。

 よし、今回もごねにごねて押し通そう。

 と企んでいるのがばれたようで、アルベルトは追加でたしなめにかかってきた。


「それに、騎士団の者達も絶対に黙っていませんよ」


 彼の苦言が正しかったことはすぐに証明されることになった。

 倒れている騎士達の中で、大柄の男性がむくりと体を起こす。立ち上がったかと思えば勢いよく私達がいる舞台まで駆け上がってきた。


「女王様、お待ちください! その人事は承服しかねます!」


 この男は確か、現団長のモーゼズさんだったっけ。なかなかの猛者らしく、彼も武功を立てて現在の地位まで上り詰めたそうな。なるほど、道理で私の毒からの回復も早いわけだ(ものすごく軽い毒だったけど)。


 舞台に上がったモーゼズ団長はそのまま止まることなく私に向かって直進してくる。

 ちょ、ちょっと待って。そ、そ、それ以上は来るなっ!


「ひ……、ひ……っ!」


 私の異常状態に気付いたアルベルトがはっとした表情に変わった。


「モーゼズ団長いけません! 止まってください!」


 その制止も聞くことなく猛将はずんずん突き進んでくる。

 も、もう……、無理だ!


「ひ、〈アクアジェイル〉……!」


 私が手をかざすと、大柄なモーゼズ団長の全身を包むように水が溢れ出す。瞬く間に完成した水の牢獄が彼をその内部に閉じこめた。

 大男は息ができずに水中でもがく。


「ゴボッ! ゴボゴボボボボッ!」


 ……ふー、危ないところだった。やれやれ、やはり捕縛の魔法は必須だったな。覚えておいてよかった。

 一息ついて胸を撫で下ろしている私にアルベルトが。


「落ち着いていないで早く解除してあげてください! モーゼズ団長が溺死します!」

「ゴボボボボ、ゴボ……、…………」

「モーゼズ団長――っ!」


 ――――。



「……前に話したじゃないですか、モーゼズ団長。リディア様は大柄で威圧的な男性がとりわけ苦手だって」

「……いや、忘れていたわけではないのだが、まさかここまでとは。危うく溺死する寸前だった」


 モーゼズ団長はずぶ濡れの姿で、巨体を小さくして三角座りしていた。その体勢のまま恐る恐る私の方に視線を向けてくる。


「じょ、女王様、これで大丈夫でしょうか?」

「はい、結構気の毒にも見えるので、大丈夫です……。そのまま微動だにしないでください……」


 ここでふとマチルダさんが何かに気付く。


「リディア様、普通に自分から距離を取ればよかったのでは? 容易に逃げられるでしょう」

「足が竦んで動かない……。迎撃するしかない……」


 私以外の全員のため息が一つに重なった。


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