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3 リディア、帰国を決断する。


 実は、理事長たるその人物に興味があった。どうやら私を学園に呼んだのはこの人らしい。何が目的なのか。確かめなければならない。

 理事長室の大きな扉をノック。

 中から若い女性の声で、「どうぞ」と応答があった。


「失礼します……。きひひひひ……」


 しまった、緊張のあまり笑い声が。早速失礼しました。

 とシールド(前髪)の隙間から理事長の席に着く人物を覗き見る。

 え……。

 そこに座っていたのは、十歳くらいの銀色髪の少女だった。綺麗なその顔に、私は見覚えがある。


「セレフィナ様……?」


 公の場で何度かお会いしていた。

 彼女はこの魔法国家ミラテネスの第一国主位継承者、セレフィナ・ミラテネス様だ。

 幼くはあるがまるで大人のような口調で話し、大人以上に頭が回る神童。


「セレフィナ様が、学園の理事長、ですか……?」

「ええ、そうです。リディア様、ご挨拶が遅くなり、申し訳ありません」


 彼女から勧められるままソファーに腰を下ろした。

 たとえ天才児で次期国主だとしても、子供なので私もそれほど緊張はしない。


「なぜ私に招待状を……?」

「もちろんあなたがコルフォード王国で一番の魔法士だからです。本日お呼びしたのはご挨拶のためだけではなく、これをお渡ししたかったので」


 普段の私は魔力を抑えて生活していた。それをこの子は見破ったというのだろうか?

 やはり普通の子供じゃない……。

 考えている間に、彼女は私の前のテーブルに本の束を積んでいた。


「あ、これ……」

「そう、三年生と四年生の教科書です。もうあなたには必要でしょう」


 話しながらセレフィナ様は私の向かいのソファーへ。

 二年生の基礎的な内容の教科書と異なり、上の学年のものはより実践的だ。属性変換や魔法習得のコツなども記されている。

 その辺りも気になる私は、たまにマチルダさんの教科書を借りて読んでいた。

 この上なく嬉しい贈り物だ。

 早速、一冊手に取ってパラパラとページをめくる。ふと疑問が。


「どうして私にここまでしてくれるのです……? この学園は、魔法国家ミラテネスの精鋭魔法士を育てるための機関でしょう……? 卒業しても、私は……」

「分かっています。リディア様に我が国の国家魔法士になれなんて申し上げる気はございません。ですが、あなたには強くなってもらわねば困るのです。守護神獣なきコルフォード王国のために。あなたの国は魔法国家ミラテネスにとっても重要ですから」

「守護神獣、なき……。何か、ご存知なのですか……?」


 セレフィナ様はすぐには答えず、少し間を空けた。


 国家は上位の神獣と契約を結び、守護神獣となってもらうことがある。その力で野良神などから国を守ってもらうのだ。

 コルフォード王国にも強い守護神獣が一頭いる。いいや、いたと言うべきだろうか。

 とても立派な馬の神、馬神様だ。

 馬より一回り大きいウルノスよりさらに何回りも大きな上位神獣。体長四、五十メートルはあったかな。馬というのは気高い動物で、それの神版ともなると気高さはもう半端ない。

 馬神様は全国民の誇りだった。

 しかし、ここ最近お姿を見かけない。

 守護神獣の加護が途切れると国内は荒れる。アルベルトも近頃野良神が増えたと言っていた。


「おそらく、コルフォード王国の守護神獣はすでにこの世を去っていると思います」


 私の心に浮かんだ嫌な予感を言い当てるように、セレフィナ様が口に。


「やはり……、そうなんでしょうか……」

「これだけ不在が続けば、そのように考えるべきかと。コルフォード王国はこれより年々荒れていき、やがては――」


 ……やがては、国の存亡に係わることが起こる。守護神獣がいないなら、人間が戦うしかない。

 私は改めてテーブルの教科書を手に取った。

 セレフィナ様がくすりと笑う。


「リディア様、あなたはやはり私が見込んだ通りのお方です。まだ時間はありますし、何か新たな属性でも習得してみては? あなたならあと二つはいけますよ」


 私はコルフォード王国という国が好きじゃない。

 それでも自分の生まれ故郷なので、滅んでいいとは思わない。社交界はなくなればいいと思うけど。

 私の脳裏に二つの属性が浮かび上がった。


「属性は地と毒に、しようと思います……」

「あら、どうしてかしら?」


 地属性とはその名の通り、大地由来のものを操る力。そして、毒属性とは魔法に毒や麻痺などの特殊効果を付与できる力だ。精霊の力を借りる火風地雷水とは異なるが、修練過程が似ているので属性に区分されている。

 現在、私が習得している水属性にこの二つが加われば……。


「毒沼が、作りたいんです……」

「あなた確か、沼の魔女と呼ばれていましたよね? ……そうですか。リディア様、あなたはとてもいい性格をなさっています」

「ありがとう、ございます……。きひひひひ……」



 ――セレフィナ様と面会した日から、私は一層修行に励んだ。

 毎日フラフラになるまで魔力を錬り、属性の習得に邁進する。


 三年生に上がった頃、ついに地属性と毒属性をマスター。同時に私の魔力量は膨大なものとなっていた。

 この学年でも私は一位を独走した。

 さらに、セレフィナ様からご許可をいただき、学園周辺の野良神討伐へ赴く。

 野良であっても神は神。その肉を食べることで神獣の魂を取りこむことができ、体や魔力が強靭になっていく。

 なお、野良狩りは一人じゃなかった。

 マチルダさんを始め、すでに国家魔法士となっていた同志達が、私を心配して同行してくれた。やはり持つべきものは同志。私達の絆は固い。


 次第に私はこの魔法国家ミラテネスという国が好きになっていった。

 同志達と一緒に国家魔法士をやりたい。そんな想いが芽生えるように……。


 もちろん母国のことを忘れたわけじゃない。

 アルベルトからの手紙は徐々に不穏なものが多くなってきた。出没する野良神が増え、彼も相当疲れているようだ。


 そして、ついにある日、絶対に帰国するなという手紙が。

 不自然にもほどがある。これまで散々、一度くらいは帰ってこい、と催促しておいて。

 まあ、私はセレフィナ様に教えてもらって状況を把握していたけど。


 コルフォード王国の首都に、虎神の大きな群れが迫っているらしい。

 野良であっても神獣なので知能は高い。どうやら虎神達は本気で国を奪いにきている。数にして百頭を超える模様。

 ボスの中位種は体長約十メートルで、下位種でも馬くらいの大きさはある。

 対する我が祖国は、騎士も貴族も総出で迎え撃つ構えだ。

 それでも結果は火を見るより明らか。彼らの魔法は人間一人を弾き飛ばすのがやっとなんだから。


 ちなみに、この頃、私は学園の四年生になっていた。

 学生をしつつも、実力が認められてすでに魔法士としても活動。全員が相当な使い手である精鋭揃いの魔法士団にあって序列は四位だ。

 そう、私は願望を抑えきれず国家魔法士になった。

 もうこのままミラテネス国民になる勢いである。この国は貴族制度などという面倒なものがなくて実にいい。社交界もないし。

 セレフィナ様も同志達も喜んでくれている。

 が、その前に母国を滅亡から救わなければならない。


 二年ぶりの帰国か……。気が重い……。

 沈んだ気持ちを抱えたまま、私は寮の自室で支度を整えていた。鎧を身につけると、心はさらに重くなった。

 やっぱり、帰るのやめようかな……。

 いやいや、国が滅ぶ。

 葛藤していると、コンコンとノック音。ドアを開けるとマチルダさんが立っていた。彼女も完全装備だ。


「私もお手伝いします、リディア様。セレフィナ様のご許可はいただいてきました」

「マチルダさん……」


 やはり持つべきものは同志だ。

 そして、これでもう帰るしかなくなった。

 鮮やかな赤髪のマチルダさんは火霊魔法を得意とする。彼女が言うには、髪が赤いので他に選択肢はないとのこと。

 ともかく、マチルダさんも上位騎士なので非常に心強い。



 学生寮を出ると、私達は走り始めた。

 そのまま町も出てさらに速度を上げる。


 魔力は身に纏うことで身体能力を上げることも可能だった。私達はすでに馬より速く走れる。風霊魔法を使える子ならおしゃれに空を飛んで、となるのだが、私達の場合は走るのが一番速い。

 程なく魔法国家ミラテネスの国境を越え、南の空白地帯へ。

 草原を二人で颯爽と駆ける。


 マチルダさんが振り返り、私の顔をじーっと。

 今は空気抵抗のせいでシールド(前髪)は解除されている。


「リディア様、あなたやはり……。シールド(前髪)、おやめになってはどうです?」

「なぜ……? シールド(前髪)は絶対必要……」

「そうですか、……もったいない」

「…………?」


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