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2 リディア、同志達と出会う。


 北の魔法国家ミラテネスとの間は危険な空白地帯になっており、先に述べた外敵が頻繁に出没する。

 野良の神獣、通称、野良神だ。

 普通の獣より何倍も大きく、恐ろしい力を持っている。

 空白地帯に入ると、同行する使用人達は一様に緊張の面持ちになった。

 程なく、御者台から叫び声が。


「野良神が来ます! ウルノスが五頭です! お嬢様いいですね!」

「いい……。手筈通りにお願い……」


 速度を落とした馬車は、やがて横向きに停車。

 使用人の一人が扉を開け放つ。


「お嬢様! お願いします!」


 乗車口に立った私は、人差し指をピンと立てた。

 こちらに向かって走ってくるのは、馬のように大きな狼達。その内の一頭を指差し、狙いを定める。


「〈水鉄砲〉……」


 ザシュ――――――――ッ!


 勢いよく発射された大量の水が大狼ウルノスを直撃。


「キャイ――――ン!」


 巨体を数十メートル弾き飛ばした。

 残りの四頭は突進を止め、互いに顔を見合わせる。


「退却の相談か……? 決断が遅れると、犠牲が増えるよ……」


 私は指をピンと立てた。


 ザシュ――――――――ッ!


「キャイ――――ン!」


 もう一頭宙を舞い、大狼の群れは逃げていった。

 敵の退却を確認した使用人がパタンと扉を閉める。


「……お嬢様のそれはもう大砲ですね。絶対に人に向けて撃ってはいけませんよ!」

「うん……」


 魔法の源である魔力は錬れば錬るほど増え、質も高まっていく。

 かなり疲れるので苦手な人が多いが、私は嫌いじゃなかった。私は地味な反復作業が大好きだ。成果の伴う疲労感はむしろ心地よくさえある。そう、すごく心地いい……。

 近頃は周囲が心配するのでそれほど無茶はしないが、幼い頃は毎日フラフラになるまで魔力を錬っていた。

 結果、かつてはアルベルトをからかうのに使っていた〈水鉄砲〉が、今や大砲級の威力に。

 普段は魔力を抑えているため、私の力を知るのは父やアルベルト、使用人達に限られる。しかし、社交界では私に肩を並べられる者はいないだろう。

 魔女呼ばわりされている私が、現実に誰よりも魔女なのだから皮肉なことだ。


「まったくもって滑稽だ……。きひ、きひひひひ……!」

「……私共はお嬢様がお一人で大丈夫か、心配でなりませんよ」



 ――使用人達や父の不安は杞憂となる。

 魔法国家ミラテネスが新たに創った学校、ミラテネス学園はまさに私の理想郷だった。学園は四年制だが、すでに魔法の使える私は二年生に編入される。

 二年生は魔力の基礎的な扱い方を学ぶ。属性変換までできる私は遥か先に進んでいたし、魔力の量でも同級生達を凌駕していた。


 学年一位となった私は、皆から尊敬の眼差しで見られるように。

 この学園は完璧な実力主義みたいだ。陰気かどうかなど些細なことだった。……まあ、変わり者だと思われていたようではある。

 二年生は授業も基礎的な内容であり、私にとっては退屈そのもの。というわけでもなかった。むしろとてもためになったと言える。

 魔力を錬る、という行為一つとっても、いくつもの秘訣やコツが存在する事実を、私は初めて知ることになった。


 今まで何となく錬っていた自分はなんと時間を無駄にしていたことか。

 などとショックを受けるより先に、効率のいい錬り方を知ることができた喜びに心は満たされた。

 また、それまで溜めこんだ魔力も無駄にはならなかった。魔力の性質や有様の基礎を学ぶことで、バラバラだったパズルのピースがぴたりとはまるように、私の力は飛躍的に上昇。

 改めてこのミラテネス学園の教育レベルの高さを実感する。さすが魔法士一族のノウハウが詰まったカリキュラムだ。


 私は欲望の赴くままに、新たなノウハウで魔力を錬って錬って錬りまくった。

 どれだけフラフラになろうと、ここには私を心配する者などいないのだから。いや、いなかったと言うべきか。

 学園で私は初めて同志と呼べる者達に出会った。



 ミラテネス学園女子寮の一室。

 通称、魔窟。


「おや、リディア様、また魔力の量が増えていませんか? ほどほどにしておかないとお体を壊しますよ」

「お気遣いすみません、マチルダさん……。つい夢中に……」

「あなたはすでに四年の私より魔力が多いのですから。まあ、それでこそこの魔窟のホープというものですが」

「ホープなど私には……。しかしこの本、面白い……」


 さほど広くない部屋で、私を含めて六人の女子生徒が読書していた。

 全員がどちらかと言えば陰気属性で共通の趣味。学年の垣根を越え、自然と私達は集まるようになった。互いを同志と呼び合うまで時間はそう掛からなかった。

 世界は広い。こんなに気の合う人達がいるとは。

 私も彼女達には全く緊張しない。


 陰気ではあるが、それぞれ各学年の上位につけている。基本的に皆真面目だし、何より魔法というものが好きなので。

 私達が集うこの部屋は、他生徒から畏怖を込めて魔窟と呼ばれている。

 どの子も優しい子ばかりなのに失礼な話だ。


 と一人が私の読む本の背表紙をちらり。


「ああ、それは私がお貸しした本ですね。お気に召しましたか?」

「はい、やはり男同士の恋愛は……」


 まさかBL本が存在していたとは。転生以来半ば諦めていたけど……。留学して本当によかった。


 ちなみに、魔窟の常連はここにいる六人だけじゃない。

 噂をすればまた一人、女子生徒がノックをしてドアを開けた。彼女は部屋に入るなり、拳を作って胸の前に。私達も同じポーズで応える。

 これが同志間での挨拶だ。たぶん周りから怖がられる原因の一つだろう。


「やはり魔窟は落ち着きますね。……とそうでした、お知らせすべきことが。リディア様、理事長がお呼びのようですよ」

「理事長が私を……? 何だろう……」


 すると、マチルダさんの手から本が滑り落ちた。


「まさか、リディア様のお誕生日の件では! 魔法でアップルパイを焼こうとして火事を出してしまったことを叱られるのでは! きっとそうです!」

「ですが、あれはリディア様の水霊魔法のおかげで大事にはならなかったはず」


 他の子が指摘して皆で揃って首を傾げる。


「まあ、寮の一階が洪水で水びたしになったので、大事にはなったんですけど」


 そう、よかれと思ってやったけど大事にはなった。

 私は本を置いて椅子から立ち上がる。


「とりあえず、行ってきます……。ご心配なく、同志達を売るような真似は、絶対にしません……」


 胸の前で拳を作って魔窟を出た。


「「「リディア様――――!」」」


 背後から魔女達の叫び声が。学園の理事長室へと私は歩みを進めた。


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