なろう限定書き下ろし3
ポイズン書店一号店のカフェブースにて、私はマチルダさんといつも通りお茶をしている。話のネタもいつも通り他愛のないものばかりだ。
何か思いついたらしくマチルダさんは笑みを浮かべながら話題を変えた。
「近頃、アルベルトさんとはどうなんですか?」
「どうって……、別にそれもいつも通りですが……?」
「……何かドキドキしたような出来事はなかったのですか? 恋愛小説のような」
「現実にそんなことあるはずありませんよ……。向こうからは毎日口うるさく言われたり、私からは視線避けのシールドに使ったり、の関係です……」
「……それは全くドキドキしませんね」
私達の恋愛話は全然盛り上がらなかった。
私とアルベルトは婚約も破棄して今やただの女王と騎士の関係なのだから、ドキドキすることなど起こるはずない、うん。
しかし、面白い話題を提供できなかったのは何とも不甲斐ない。そうだ、あれがあった。
と私は懐から一枚の紙を取り出す。
「マチルダさん、こちら来月出版予定の新刊ラインナップです……」
「待っていました! おお、今回も魅惑的な作品が沢山ありますね。あ、チーズケーキ先生の新作も入っているじゃないですか!」
「新米中年騎士と年下上司の恋愛物(BL物)になります……」
「な、なんてくすぐられる設定! さすがチーズケーキ先生です!」
チーズケーキ(=筆名)先生は私がコルフォード王国に呼び寄せた作家の一人だ。以前は他所の国の図書館で司書をしながら細々と執筆していたが、現在では我が王国随一の売れっ子になっている。
来月はチーズケーキ先生以外にも実力のある作家が続々と新刊を出すとあって、私達の話は大いに盛り上がった。恋愛話よりよっぽど盛り上がった。
(リディア、体から何とも言えない負の、いえ、腐のオーラが出ていますよ)
足元から口をはさむようにシマリスが思念を送ってきていた。
そういえば、今日はポージーも一緒に来たんだった。
まったく、文学を理解できない獣はおとなしくスイーツでも食べてて。新しいの注文してあげようか?
(いえ、甘い物はもう結構です。しょっぱい食べ物はないんですか。チーズバーガーとか)
「そんなジャンクフードあるか……。ここは文学好きの乙女達(腐女子達)がお茶とスイーツを楽しむ場なんだから……」
「おや、ポージーさんは何と言ってきているのですか?」
契約獣の思念が聞こえないマチルダさんが首を傾げて尋ねてくる。
会話の内容を説明すると彼女は考える仕草を取った。
「案外、需要があるかもしれませんよ、ジャンクフード」
「え、本当ですか……?」
「ここに来る女性のほとんどは、外でチーズバーガーを買い食いしたりはできない方々ばかりでしょうし」
……言われてみれば、屋台での買い食いは我が同志達にはハードルが高いかもしれない。お忍びでやって来ている貴族のご婦人もいるし、もしかしたらバーガーなんて一度も食べたことのない人だっている可能性がある。
私はカフェに来ている女性達の方にくるりと振り向いた。
「皆さん、ここでチーズバーガーとか食べられたりしたら、どうです……?」
答を聞くまでもなく、全員の顔が一斉に輝いた。
……本当に結構な需要がありそうだ。
下で様子を窺っていたポージーがそのふさふさの尻尾をブンブン振る。
(あらゆるジャンクフードを食べ歩いてきた私がメニューの監修をしてあげますよ!)
「このシマリス、グルメ家きどりか……」
――ところが約一か月後、カフェの隣にオープンしたジャンクの殿堂、ポージーズキッチンは大層な盛況ぶりを見せることになった。





