なろう限定書き下ろし2
大勢の視線を一身に浴びるという最大の危機も、周りを(それほど)毒沼化させることなく乗り越え、町での視察は続いていた。
と、ずんずん進んでいたポージーがピタリと足を止めた。一軒の屋台を食い入るように見つめている。
(……あのホットドッグ、美味しそうです)
すると、心の声が聞こえないはずの屋台の店主が、つぶらな瞳に誘われるようにフラフラと出てきた。商品のホットドッグをシマリスに差し出す。
(わあ、いいんですか! ありがとうございます!)
待て待て! 今のは確信犯だろ! このあざといシマリスめ!
(あ、すみません、ついうっかり。食べたい物がある時はリディアに言うのでしたね)
謝りつつもポージーは前脚で掴んだホットドッグを嬉々として頬張っていた。
ため息をつくしかなかった私は、シールドにしているアルベルトの背中を指で突っつく。
「あれの代金、払ってきてくれる……?」
「承知しました、少々お待ちを」
そう請け負ってくれたアルベルトだったが、屋台へと向かって程なく頭を抱えながら戻ってきた。
「……受け取ってもらえませんでした。自分から差し上げた物だからと」
……こうなるから事前に私に言えと言ってるんだよ。
女王である私は、ただでさえ買い物をしてもお金を受け取ってもらえないことが多々ある。そうもいかないので、いつも本当に苦労して支払いをさせてもらっている(アルベルトが)。
なのにこのシマリスときたら可愛さを武器に、ついうっかり、商品を入手してしまうのだから困ったものだ。
これはそろそろいい加減に何とかしなければならない。
私はホットドッグを食べているポージーに詰め寄ると、その頬袋を両手で挟みこむ。
「ポージー、城に戻ったら特訓だ……!」
(と、特訓ですか? 何の?)
――この日、私は深夜までポージーに数字の読み方とお金の種類を叩きこんだ。さらには、アルベルトにお店屋さんの役をやってもらって模擬演習までこなした。
そうして翌日、私達は再び町へと繰り出す。
私はポージーの首に紐の付いたガマ口の財布をかけた。
(お財布、いりますかね。お金は私の頬袋に入れたらいいのでは?)
このシマリスは何かと物を頬っぺに収納したがる。口に入れたお金を受け取る店側の気持ちも考えてあげて。
(頬袋の中は綺麗ですって! 人間のポケットと一緒だといつも言っているでしょ!)
はいはい。それよりポージー、特訓の成果を見せてくれ!
(が、頑張ります。じゃあ、あの屋台にしましょうかね)
からあげドッグの屋台に走っていったポージーは、そのカウンターに前脚をかけて二足立ちに。ちらりと値段表を見ると、自分で財布を開けて一枚の硬貨を取り出した。
うむ、初めての買い食いは成功だ。
自力で買い物をしたシマリスに、周囲で見守っていた人達から驚きの声が上がる。
神獣は普通の動物より知能が発達しているので頑張ればこれくらいはできる。が、なぜか私は少し誇らしい気分だった。うちのポージー、なかなかやるでしょ、的な。
「ですがリディア様、ポージーさんに財布を預けたままでよろしいのですか?」
しみじみと特訓の成果を噛みしめる私に、アルベルトが横から。
どういう意味か尋ねると、彼は買い食いを終えたポージーを指差して見るように促す。
私の契約獣は財布を手(前脚)に浮き足立っていた。
(自分で好きな物を買って食べられるって素晴らしいです! 次はあっちの肉まんを、いえ、ここは一度甘い物を挟むべきでしょうか!)
「…………。あれはもう財布を空にする勢いだな……」
私は呆れながらそう呟いたものの、嬉しそうなシマリスの様子に、まあいいかとも思った。
最弱種ゆえにポージーは生まれてからずっとあの北の森で命懸けの日々を送ってきた。それはもう毎日が緊張の連続だったに違いない。
頑張って生き延びてせっかく私と出会えたんだから、ジャンクフードを思いっ切り買い食いするくらいの贅沢はさせてあげてもいいんじゃないだろうか。
露店のお菓子を齧るポージーの瞳は、気のせいかもしれないけどいつもより潤んで見えた。
(美味しいです! こんなに幸せな毎日でいいんでしょうか!)
私の口には自然と笑みが浮かんでいた。
「まあいいか……」





