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14 リディア、野良神討伐に赴く。


 カフェに入ってしばらく経ち、全員が大体お茶を飲み終えたのを確認して私は口を開いた。


「実は私、守護神獣が欲しいんだ……。今から捕まえにいこうと思う……」


 皆の視線が私に集中する。めげずに言葉を続けた。


「守護神獣に王国を守らせて、楽をしたい……。ちょうど北西の森林地帯に鳥の野良神が集まってきてるし、そこに行こう……」


 私の発言を受けてマチルダさんとアルベルトが顔を見合わせていた。


「これは天邪鬼が発動していますね。北西の森といえば、ここしばらく騎士団が多くの人員を割いて警戒している地域」

「つまり、悩みの種になっている野良神の群れを今から討伐にいこう、ということですね」


 ……だからこの二人、どうして私の本心をわざわざ言葉にしたがるんだ。そういうことだよ!

 実は近頃あの一帯が気がかりだった。このままじゃ周辺の村々に被害が出かねない。



 ――カフェを出た私達はそのまま首都である町の外へ。軽く準備運動をすると、全員で敷かれた街道を走りはじめた。以前も言及したが、急ぐ時はこの方が馬を使うより断然早い。


 もちろん私とマチルダさんは全く問題ないんだけど、心配なのは他の三人だった。

 ちらっと振り返って背後を確認する。

 シェリーンさんは割と余裕な様子。やっぱりこの子は魔力の操作が上手い。無駄なく走るのに必要な筋肉を補強している。

 アルベルトもどうにかついてきているようだ。私の見ていない所で(まあ〈水鏡〉で見ているんだけど)変わらずハードな訓練をこなしている成果が表れていた。

 あまり大丈夫じゃないのはモーゼズ団長か。彼も訓練を頑張ってはいるものの、いかんせん大きな体が重く、年齢的にもちょっと厳しい。


「モーゼズ団長……、少しスピードを緩めましょうか……?」

「はぁはぁ、じょ、女王様、お気遣いなく。騎士団団長として、はぁはぁ、隊の足を引っ張るわけにはまいりません!」


 でも、このままじゃ現地に着いた頃には戦闘どころではない状態になっているのでは? ……こまめに休憩を挟むか。


 というわけで、走りはじめて三十分ほどで一旦止まることになった。

 すでに息も絶え絶えのモーゼズ団長に、私は腰の道具入れから取り出した干し肉を手渡す。


「野良神の肉を干したものです……、食べてください……」

「す、すみません、女王様」


 神獣の肉を食べれば一時的に回復が早まる。また、永続的にも肉体が強くなり、魔力の量も底上げされる効果があった。神獣というだけあって、摂取することで人から神に近付くのかもしれない。

 干し肉を齧る大男を眺めつつマチルダさんがひそひそと喋りかけてきた。


「息を切らしながらでも私達の速度についてこれるなんて、二か月で驚くべき成長ぶりですよ。頻繁に混入させた甲斐がありましたね」


 そう、ここにいる三人と選抜騎士達五十六人の食事には、私とマチルダさんが狩った野良神の肉をしばしば混ぜこんでいた。どれだけ効率的な訓練を受けたとしても、短期間ではそうそう強くはなれない。そこで、ちょっと荒業に出ることにした。

 皆、もう人間じゃなくなっているかもしれないけど許してほしい。


 ひそひそ話をする私と王国顧問に、アルベルトが呆れたような視線を投げかけてくる。


「いえ、ほとんどの者が気付いていますよ。食事の後、明らかにパワーアップしていましたし」

「なんだ、じゃあ堂々と混入させればよかった……。私やマチルダさん、ミラテネスの国家魔法士は皆そうやって強くなってるから心配いらない……」

「ですが、献立にメイン料理『ウルノスのから揚げ』とか書かれていたら食が進まなくないですか?」


 マチルダさんがそう指摘すると、アルベルトは少し考えた後に「それもそうですね」と素直に納得していた。


 ところで、短期間の集中訓練を終えた五十六人の選抜騎士達は現在、大体が百人ほどの騎士を指揮する中隊長になっている。今後はそれぞれの隊で培った技術や経験を広めてもらい、騎士団全体の底上げをするのが狙いだ。

 あとはその五十六人の中からさらに多くの人数を預けられる器の者が現れてくれれば、コルフォード騎士団は盤石となるだろう。


 再び走りはじめた私達五人は、もう一度休憩を挟んだのち、王国の北西部地域に入る。街道から外れていよいよ野良神の集結が確認されている森林地帯に迫りつつあった。

 そろそろ目視でも森を確認できるだろうかと思っていた矢先、不意にシェリーンさんが空を見上げながら呟く。


「……何だか、不穏な魔力の流れを感じます」


 この子まさか、大気中の魔力まで読めるのか……?

 いや、この件は後だ。今はそれどころじゃない!


「私は先に行く……!」


 そう言い残すと私は纏う魔力を増やしてスピードを上げた。三人の騎士達のみならず、マチルダさんも置き去りにして北西に向かって駆ける。


 焦る気持ちで風を切ること数秒、まず広大な森が視界に入り、次いで小さな村を捉えることができた。

 その集落の状況に私は戦慄を覚えた。上空を何羽もの巨大な鳥が舞い、村の至る所で火の手が上がっている。


「そんな……、遅かった……」


 絶望と共に魔力感知を開始するも、すぐに奇妙な事実に気付く。


 ……住民が、一人もいない?

 首を傾げつつさらに感知を続けていると、森から一人の女性騎士が馬で走り出てくるのが見えた。この間にマチルダさん達四人が追いついてきたので、全員で彼女の到着を待つ。


「女王様! 助けにきてくださったんですね!」


 まだ若いその女性騎士の顔に私は見覚えがあった。確か五十六人の選抜騎士の一人、ナタリルさんだ。ということは、この一帯の警戒に当たっていた隊の隊長か。

 彼女の話によれば、村の住民達を隊全員で森の陰まで避難させてくれたらしい。


「監視していた鳥神達の雰囲気が突然変わったので、一番近くにあったあの村が襲われるのでは、と思いまして。住民の避難は隊の皆で協力して、何とか間に合わせることができました……」


 ……よく、やってくれた。彼女の機転と判断がなければ、住民は村ごと全滅していてもおかしくなかった……。

 改めて感謝を述べようとしたその時、ナタリル隊長の背後からちらりと幼女が顔を覗かせた。シェリーンさんよりさらに幼女で、おそらく五、六歳くらいだろうか。


「ナタリル隊長、住民を下ろし忘れていますよ……」

「あ、ごめんなさい!」


 慌てて振り返ったナタリル隊長が謝ると、幼女は「だいじょうぶです」と返した。

 ふむ、ややおっちょこちょいではあるけど、リーダーの素質があって、何より国民を思う心がある。私は彼女を気に入ってしまったかもしれない。


 森の中を魔力感知して、そこに大勢の騎士達と住民達が身を寄せ合っているのを確認。安堵のため息をつく私を、ナタリル隊長の後ろから幼女がじっと見つめてきていた。


「このおかたが、じょおうさま……? なんかじめじめしておられます」

「た、確かにじめじめしておられますが、とてもお綺麗でものすごくお強いのですよ!」


 ナタリル隊長があたふたしながら私をフォローする。世話をかけます。


「リディア様、幼子にまで陰気な性質を見抜かれている場合ではありません。あれをご覧ください」


 空を指差しながらアルベルトが私にもそちらを見るように促してきた。見なくても魔力感知で気付いてるって。


 村を襲撃していた鳥の野良神達がこちらに向かって飛んでくる。神獣は頭がいい。どうやらあちらも私達の魔力を感知して、即刻排除しなければ今後の計画が狂う、と判断したようだ。

 望むところ、王国トップ5の実力を見せてやろう。


「皆、迎撃態勢を……。敵の攻撃は私が全て防ぎますので、存分に撃ち落としてください……」


 そう言って私が手をかざすと、空中に巨大な水の塊が出現。


「〈水霊自動防壁〉……」


 何羽かの鳥神がこちらに火炎を吐くと、私の作った水塊が即座に反応した。分割した水で宙に壁を生成。迫りくる炎をことごとくガードする。


「さすがはリディア様のオリジナル防御魔法です。では、私達は攻撃に集中しましょう」


 とマチルダさんがお得意の〈炎舞輪〉を空に向けて放つ。師匠の魔法に続いてシェリーンさんが教わった〈ファイアボール〉を発射。アルベルトとモーゼズ団長も習得している遠距離魔法で応戦を開始した。


 ……うーん、仲間達は頑張っているけど、これはなかなかに分が悪い気がする。

 敵は鳥神種の野良神。下位神獣のファルガでも火霊魔法を使ってきてるし、さらに一回り大きな中位のファルゼオも二羽いる。半年前の虎神の群れより明らかに強敵だ。


 何より地対空というのがよくない。

 アルベルトとモーゼズ団長の魔法は結構避けられているし、シェリーンさんの火球はなぜか必ず命中するけどまだ魔力が弱いので一撃では仕留められずにいる。敵の数を減らしているのは、実質的にマチルダさんただ一人。

 これで王国トップ5なんだから、我がコルフォード王国はまだまだだな……。


 今後の強化策を練っていると、森の奥からファルガとファルゼオの増援が飛んでくるのが見えた。

 仲間達を代表してマチルダさんが悲鳴を上げる。


「さすがにまずいのでは! リディア様、一度撤退しますか!」

「いいえ、もう私がまとめて討伐します……」


 私の発言に全員が手を止めて振り返った。


 使用するのはオリジナル魔法ではなく、人類が生みし最上位の水霊魔法だ。かなりの魔力を要するので普段なら失敗しかねないけど、今の私なら使いこなせると思う。

 ……この魔力の高まり、覚えがある。半年前の虎神事変の時にも感じた。王国の皆が襲われているのを見て憤った心に、魔力が応えてくれたような感覚。だからこそ、〈大毒沼〉もあんなに大規模に発動できた。

 今ならこの最上位魔法も完璧に制御できるはず。


 ……野良神、この王国の民に手を出しておいて、無事で済むと思うな!


「〈メイルシュトローム〉……!」


 天に向けて両手を伸ばすと、上空で水が円を描いて舞いはじめる。それはすぐに巨大な大渦へと変わった。

 下位も中位も、全ての鳥神が大渦に引き寄せられていく。まるで大きな洗濯機に放りこまれたかのようになす術なくグルグルと回り出した。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!


 大渦は周囲の雲をも洗い流し、魔法が収束した時、そこには突き抜けるような晴天が広がっていた。

 舞う風でシールド(前髪)が解除された私もまた、一切の障害なく晴れ晴れした気持ちでその青空を見上げる。


 馬から下りたナタリル隊長の隣では幼女が驚きの表情に。


「ほんとうです……。じょおうさま、とてもおきれいでものすごくおつよい!」


 一方で、マチルダさんはため息をついた後に感想を述べてきた。


「……リディア様、やはりあなたはちょっと格が違いますよ」


 これに騎士達も同意して頷く。その中の元婚約者に私は視線を向けた。


「アルベルトが言った通りなのかもしれない……。私はたぶん、この王国の皆を守るために生まれたんだ……」

「…………。どうしてそうお思いになるようになったか、お分かりですか?」

「え……? どうしてだろ……」

「それはリディア様がこの王国を、そして、ここに暮らす民達を好きになりはじめているからだと思います。だから、辛い生活を送っている者がいれば救ってあげたくなりますし、危機に陥っている者がいればすぐにでも駆けつけてあげたくなるのではないですか?」


 アルベルトは温かな眼差しで私を見つめてきていた。

 なんか、すごく保護者的な視点から言われている気がする。私は元婚約者だぞ……。


 だけど、そうか。私、抜け出したくてたまらないほど嫌っていたこの国を、好きになりかけているんだ。

 ……私も、少しは女王らしくなってきたということなのかな。


なんとこの小説、書籍化が決定しました。

応援してくださった皆さんのおかげです。

感想、誤字報告をくださった方々、本当に有難うございます。

少しでも早くお届けできるように頑張ります。

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