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13 リディア、王国顧問を迎える。


 女王になってから六か月が過ぎた。

 今日もデスクワークは午前中に終え、午後からは私とアルベルト、マチルダさん、そしてモーゼズ団長とシェリーンさんで町に繰り出した。

 結構目立つ一行だけど、頻繁に来ているだけあって往来を歩いていてももうそれほど騒がれなくなっている。私がどういう性質の女王なのかも国民達は理解してくれているので、皆遠巻きに会釈をするだけだ。

 実に居心地のいい町になった。しかし、私を見る皆の視線がやけに温かいような……。


「私、なんか国民からめっちゃ慕われてる……?」


 疑問を口にすると隣を歩くアルベルトが微笑んだ。


「コルフォード王国は身分制社会なだけに、色々と息苦しいことも多いのですよ。ですが、リディア様のような方でも女王が務まっているのを見ると、肩の力が抜けて救われた気持ちになるのだと思います」


 ……どういう意味だ、このやろう。

 私はちょっと根暗で対人恐怖症持ちで、そのくせ己の欲望には忠実で、割とやりたい放題やっているだけのきちんとした人間……、いや、全然きちんとしてはいないか。

 だけど、私を見て皆が楽しそうにしているのは、嫌な気分ではない、かも……?


 聞こえてきた笑い声にふと目線を前方にやると、モーゼズ団長とシェリーンさんが、こちらも楽しそうに町の露店を覗いているのが確認できた。

 シェリーンさんは団長見習いとして二か月前からずっとモーゼズ団長と行動を共にしている。それにつけても、ずいぶんと仲良くなったものだと思う。


「まるで親子のようだ……」

「実際にもうすぐ親子になりそうなんですよ、あの二人」


 私の呟きに想定外の答をくれたのはマチルダさんだった。

 どういうことか尋ねると彼女は詳しく教えてくれた。何でも、モーゼズ団長は現在シェリーンさんのお母さんとお付き合いしているんだとか。団長見習いの監督者として家に挨拶に行った時に知り合って、時間の経過と共にそういう関係になったらしい。


 こちらの話が耳に入ったのか、モーゼズ団長がスッと振り返った。


「……俺は、齢四十を過ぎてついに守るべき人に出会ったのです」


 ……そうですか。え、初恋?

 続いてシェリーンさんが嬉しそうな表情で。


「本当に女王様のおかげです。弟や妹達も皆、見かけによらず優しい人柄のモーゼズ団長が大好きなんですよ」


 完全に見かけで判断して溺死させかけた私には少し耳が痛いけど、まあ幸せそうで何より。


「リディア様のおかげで助かっているのはシェリーンさんの家庭だけではありません」


 アルベルトがそう言って町角にある建物を見るように促してくる。

 ああ、あそこは首都内に複数か所設置した支援所の一つだ。生活に困っている家庭に週一回、お金と食料品を配給する施設になる。


 支援所の設置はこの二か月で私が精力的に進めた政策だった。かなりの財源が必要だったので、資金は王国よりお金を持っている四大公爵家にたかることに。私は実家の公爵家だけじゃなく四家全ての推薦で女王になっているのだから、このコネを利用しない手はない。

 まだ開始して間もない政策だが、すでに首都全体の治安が改善したという報告が上がってきていた。次は王国全ての都市に支援所を作っていく。生活に困っている家庭はどこの都市にもあり、運よくうぶな騎士団長が転がりこんでくることなどそうないだろうから。


 どうやら今日は配給日だったようで、視線の先の支援所には大勢の人が出入りしている。私の存在に気付いた彼らは、こちらに向かって全員で深々と頭を下げてきた。


 や! 私は金持ち貴族にたかっただけなので、そんなことしないで!

 途端に体がもぞがゆくなって私は駆け出していた。何をニヤニヤしているんだ、アルベルト!

 仲間達を急かして目的地へと向かった。


 本日の目的地はスイーツが美味しいと評判のカフェだった。

 当然ながら私はアップルパイを注文したが、今回はスイーツが目当てじゃない。隣の建物でポイズン書店二号店をオープンするべく改装中なのでその下見にやって来た。


「まだ途中でしたけど、すでにいい感じに仕上がってましたよ。ですが、私が二フロアも貰ってしまってよろしいのですか?」


 一人遅れてカフェに入ってきたマチルダさんが席に着く。彼女の問いかけに私は頷いて返した。


「もちろんです……。マチルダさんは我が王国の顧問なのですから……」


 そう、実はマチルダさん、魔法国家ミラテネスを出奔してコルフォード王国国民になった。どうやら騎士達を指南している間に、自分を慕ってくる彼らに愛着が湧いてしまったらしい。


「私はマチルダ先生が正式に来てくださって嬉しいです!」


 と一番弟子のシェリーンさんが笑顔を弾けさせた。すると師匠はその手をぎゅっと握る。


「安心してください、あなたは私が必ず王国最強の騎士に育て上げてみせます!(……ああ、可愛い幼女なのに戦闘の天才というギャップがたまりません!)」


 ……私にはマチルダさんの心の声がはっきりと聞こえる。腐女子同士ゆえに。騎士達に愛着が湧いたというのは嘘じゃないんだろうけど、メインは幼女な気がしなくもない。


 たとえ動機が邪でも、ランキング上位の国家魔法士であるマチルダさんが加入してくれるのはとても有難い。

 とはいえ、派遣されて来ていた彼女を引き抜く形になったので、ミラテネスには申し訳ない気持ちがあった。そう思っていた矢先にセラフィナ様から『もしマチルダさんが国を移りたいと言った時は、こちらにご遠慮は無用です』と手紙が届く。全て想定済みなのだから、やはりあの少女はただ者ではない。


 その言葉に甘えて、マチルダさんには王国顧問というポストで助けてもらうことにした。住居としてきちんとした屋敷を用意しようと考えていたところ、彼女は小刻みに震えながら「……私、魔窟に住みたいです」と。

 思い返してみれば学園女子寮の魔窟も元はマチルダさんの自室であり、同志達を集めて魔窟を始めたのも彼女だった。しばらくコルフォード王国に派遣されていて、私以上に同志に飢えていたんだ。

 なお、マチルダさんは節度をわきまえた女性なのであまり表には出さないが、BLに百合、ロリにショタ、その他あらゆるジャンルを網羅しており、実は腐女子度は私より高いと言える。

 ……シェリーンさん、平気だろうか。まあ節度をわきまえた師匠だから平気だろう。


 ともかく、マチルダさんの要求(欲求)に応えるべく、隣の建物は一階と二階をポイズン書店二号店、その上の三階と四階を彼女の住居兼魔窟とすることにした。


 新店舗に並べる本の相談をする私とマチルダさんから何か波動を感じ取ったのか、アルベルトが頭を抱えている。


「……なぜかまたコルフォード王国の行く末が不安になってきたんですが」

「アルベルトは心配性だな……、大丈夫だって……」


 女王と王国顧問が揃って腐女子なだけだ。


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