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12 リディア、魔王外交で国を守る。


 外相とその娘を一瞥して、興味なさげに私は玉座に腰を下ろした。

 私が読みこんだ魔王は傍若無人な振る舞いが特徴だ。どんな思惑を腹に抱えていようと、相手が国の賓客であることに変わりはない。こんな態度を取るのは正直気が引けるけど、読みこんでしまったからには仕方ない。


 玉座でまずため息をつくと、不機嫌さを滲ませて声を発した。


「かねてより謁見は断ってきただろう。にもかかわらず、何度もしつこく申し入れをしてくるとはどういう了見だ?」

「も、も、申し訳ありません、女王様……!」


 外相は顔を上げられないまま震える声で返答していた。

 私の不機嫌さは放っている魔力にも表れている。彼にしてみれば、真綿で首を絞められているような感覚だろう。

 この緊張から何とか逃れたい外相は猫撫で声で。


「この度は贈り物も持参いたしましたので、何卒ご機嫌をお直しください!」

「……ふむ、まあいい。で、私に直接伝えたかった用件とは何だ?」

「え……?」

「とぼけるな、用件があったから何度も申し入れてきたのだろう?」

「い、いえいえ! ただ一度お祝いをと思いましただけでして!」


 この状況で関税を引き下げろとはとても言えないよね。

 外相、ちょっと喋っただけなのにすごく疲弊してる。可哀想だからもう帰らせてあげてもいいんだけど、せっかくだしあと少し付き合ってもらおうかな。私、こんなにすらすら話せるのは人生で、いや、前世も含めて初めての経験なので。


「そういえば、外相殿の国の守護神獣はなかなかに強いらしいな。この私と比べてどちらが戦力的に上か、そなたなら判断がつくだろう、どうだ?」

「はぁ……、お、同じくらいではないかと……」

「……何だと? かような場では通常こちらを立てて、私が上と言うべきではないのか?」


 私は眉をピクリと動かし、魔力に一層苛立ちの色を混ぜこんだ。これに伴って壁や床が再び軋み出す。

 娘の方が慌てた様子で父親にすがりついた。


「おおおおお父様、すぐに謝罪を! 女王様に謝罪をしてください!」

「ももももも申し訳ありませんでした! 女王様が上でございます!」


 おろおろする二人をしばらく放置した後に、私は一瞬で魔力の緊張を解いた。


「意地の悪い質問をしたな。許せ、戯言だ」


 と微笑んで見せた。魔王はこういうお茶目なところもある。


 隣に視線をやるとマチルダさんは、何もそんなところまで再現しなくても、といった感じでため息をついた。

 ……確かにお茶目が過ぎたらしい。外相親子が、魂が飛んでいったように何だか白くなってしまった。


 さすがに、本当に可哀想になってきたのでそろそろ解放してあげよう。おっと、その前に釘を刺しておかないと。娘には言っておきたいこともあったんだ。魔王の今なら結構近付いても大丈夫なはず。


 玉座から立ち上がった私は段差を下りて二人の前へと歩いていく。


「貴国の農産物への関税は、我が王国の農業保護の観点から現状が望ましい。また、そちらにも充分な利益が出ていることから適正であると考える。異論はないな?」


 まず外相にこう告げると、彼は青ざめた顔で「異論ございません……」と答えた。


「この王国内で話したことは全て私の耳に入ると思え。私達はこれからも貴国とよい関係でありたいと思うが、そちらがその気なら私と騎士達で相手してやる。ふふ、私とそちらの守護神獣、どちらが上かはその時にはっきりさせてやろう」


 好戦的な笑みと共にさらに魔力を引き出すと、外相は尻もちをついて放心状態になった。

 次いで私は娘の前へ。こちらは私が声をかける前からカタカタと震えはじめる。


「そなたが見たがっていた私の顔だ、しっかり拝むといい。どうだ、醜いか?」

「まさか! めっそうもございません! とてもお美しいです! 醜いのは私めの顔にございます!」

「……ふー、よいか、美しさなどというものは人それぞれに異なって備わっているものだ。他者と比べてしまう気持ちも分かるが、ほどほどにしておけ」


 もう一歩踏みこんで、私は娘の顔にそっと手を触れさせた。


「そなたにもそなただけの美しさが確かにあるのだから」


 この瞬間、彼女の顔がボンッと音をたてて真っ赤に染まった。とろんとした目で私のことを見てくる。


 あれ、この反応はもしや……?

 ……しまった。読みこんだのがBLの魔王だっただけに同性を魅了してしまったらしい。


 ――――。



 外相親子が謁見の間を去ると、アルベルトが玉座にいる私の所まで駆けてきた。


「リディア様いったいどうなさったのですか! まるで別人のように女王様らしい女王様でしたよ!」


 じゃあ普段の私はどれだけ女王らしくないんだ。

 と尋ね返すより先に私の体は玉座の上で崩れていた。ティアラが取れてシールド(前髪)がバサッといつもの定位置に。

 ……つ、疲れた。なぜか精神的な疲労が一気に押し寄せてきた……。


 そんな私を眺めながらマチルダさんがしみじみと呟いた。


「やっぱり人間、慣れないことをすると負荷が半端ないみたいですね」


 そう、本来の自分とは真逆のようにはつらつとした人間を演じることで、心に相当な無理をさせていた。やはり魔王を憑依させるのは危険な行為だった……。

 ところが、この魔王外交は効果が絶大なようで文官達は「ぜひ今後も!」と強く要請してきた。月に一回程度なら、と私は渋々了承してしまう。


 私が国際社会から鋼の女王と呼ばれるようになるのは、これより少し後のことになる。


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