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11 リディア、魔王になる。


 外交用の豪華なドレスに着替えた私に、メイド達が次々に装飾品を装着させていく。

 お、重い……、ちょっと付けすぎでは?


 首から下の支度が整い、いよいよシールド(前髪)が解除された。すると、私の素顔を見たメイド達は一様に唖然とした表情に。


「……こんなにお綺麗だったなんて。どうして普段お隠しになっているのですか?」


 やむをえぬ事情があるのです。


 やはり皆、私はひどい容姿を見られたくないから顔を隠していると思っているのだろうか? 別に人にどう思われても構わないんだけど、まさか国外でも噂になっているとは。

 そうだ、もう少しあの外相達を探っておこう。どうも関税の引き下げだけが目的じゃない気がするんだよね。


 もう一度〈水鏡〉を発動して偵察を再開した。


 監視しているとやがて外相の口から気になる発言が飛び出す。


「守護神獣がおらず、騎士団も弱いこのコルフォード王国は隙だらけだ。いくら女王様が強いといっても所詮は一人の人間、我らの守護神獣様ほどではあるまい」


 あの外相の国はコルフォード王国に領土が接している。なるほど、まずは経済を弱らせてゆくゆくは軍事行動に出るつもりか。

 野良神も厄介だが人間も相当だ……。


 外相の発言を聞いていたマチルダさんは、今度は水の鏡を破壊することなく笑みを浮かべていた。


「外交を担っているくせに彼は世界を知りませんね。この世には守護神獣に匹敵する人間がいるというのに」

「ミラテネス学園は、上位の守護神獣と渡り合える人材を育成するための機関ですからね……」

「はい、実際にランキングが上の国家魔法士はその実力を備えています。リディア様、向こうがああいう魂胆なら少々脅しをかけた方がよいのでは?」

「そうですね……。急ごしらえではありますが、選抜騎士達に召集をかけましょう……」


 とアルベルトに視線をやると、彼は私の姿をじっと見つめたまま固まっている。私が追加で声をかけてようやく我に返った。


 今の、まさかシールド(前髪)を解除した正装の私に見惚れていた?

 私は胸の奥から湧き上がる高揚感を我慢できなかった。


「くくくくく……、婚約破棄したことを後悔したか……?」

「な、何を仰るのですか! ……モーゼズ団長と騎士達に声をかけてきます」


 アルベルトは動揺を隠しきれない様子で支度室を出ていった。


 ……実に気分がいい。あんなアルベルトが見られるなら、たまにシールド(前髪)を上げておしゃれをするのも悪くはない!

 高笑いする私の一方で、マチルダさんは何やら考える仕草をしていた。


「どうかしたのですか……?」

「いえ、騎士達を並べるだけでは不十分かと思いまして。私もリディア様と一緒に出ましょう。魔王には側近が必要ですし」

「なぜに魔王……?」

「リディア様、外見だけ整えてもいつもの雰囲気では迫力に欠けます。そこでですね」


 彼女は懐から一冊の小説を取り出す。

 あ、それは私お気に入りの、勇者と魔王の恋愛を描いたシリーズもの。(戦い合う運命にありながらも互いに引かれていく、勇者と魔王のベタな展開のBL小説)


「ここに登場する魔王になりきって演技してみるのはどうでしょう?」

「そんなの、うまくいくはずありません……」

「きっと大丈夫ですって、少しの間だけ普段とは違う自分になるんです。リディア様、あなたは魔王です! 今から魔王になるんです!」


 マチルダさんの目を見つめていると、奇妙なことに段々とそんな気分に。


 ……私は、魔王……。


 ……今から私は、魔王になる……。


 キュィ――――――――ン。


 ――――。



 謁見の間にて、私とマチルダさんは玉座脇の物陰から広間の様子を窺っていた。


 広間では玉座へと続くカーペットの両サイドに騎士達がずらりと並んでいる。左右それぞれの列の先頭に立つのはアルベルトとモーゼズ団長だった。


 そこに、扉が開いて外相とその娘が入場してくる。二人は居並ぶ騎士達を見て驚きの表情に変わった。

 おそらくあの二人の仕事には、外交で訪れた国の弱点を調べたりすることも含まれているんだろう。それゆえに、どちらも多少の魔法の心得がある。だから、騎士達の魔力も感知して、その実力が分かったはずだ。


 クラゲとの戦闘から約一か月。選ばれた五十六人の騎士は、マチルダさんと、ミラテネスから派遣された国家魔法士団の訓練をみっちり受けた。期間は短かったものの、元々全員が才能で選出されているだけあって成長は早く、それなりの使い手に仕上がっている。他国の騎士と比べても、また外相達が連れていた護衛達と比べても、こちらの方が遥かに腕が立った。


 皆、よくぞあの地獄のような一か月を耐え抜いた。


 そして、誰よりも熱心に訓練していたのはアルベルトとモーゼズ団長だ。それぞれに他の騎士達には負けられない事情があるらしく(団長は一度私からクビにされかけてもいるので)、とにかく必死に頑張っていた。


 こうして、アルベルトとモーゼズ団長を筆頭に結構な精鋭集団が出来上がった。今のこの部隊がいたなら、私なしでも五か月前の虎神事変は何とか凌げたと思う。


 彼らの成長ぶりは私があれこれ説明するより、外相親子の反応が一番もの語っている。


「思った以上に効きましたね。本番はここからですけど。では参りましょうか、女王様」


 マチルダさんに頷きを返し、二人で玉座の前へと歩みを進めた。

 この瞬間、外相と娘は膝をつく慣例も忘れて私の姿に釘付けとなった。たぶん本人でも無意識だろうが、娘の方が小さな声で呟く。


「……話が、違う……。不細工どころか、まるで女神のような美しさじゃない……」


 ふむ、ざまあ。

 では、ここからは脅しをかけさせてもらうとしよう。


 私とマチルダさんは抑えていた魔力を同時に解き放った。謁見の間の壁や床が微かに軋んだ音を奏でる。

 膝をつくのを忘れていた外相と娘は、膝から崩れる形で強制的に頭を下げることになった。


 油汗を流す二人を眺めつつ、私が最初の言葉を発する。


「よくぞ来た。私が女王、リディア・コルフォードである」


 不思議だ、魔王になったら言葉も淀みなく出るようになった。

 隣で見ていたマチルダさんが小声でぽつりと。


「……リディア様、かなり乗せられやすいタイプですね(別に私、催眠術とか使っていませんよ)」


 うん、我ながらちょっと恥ずかしい。


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