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第8話 これが私達の世界の地図です

「ここの連中は『やれ沙羅神と関わるな』だの、『やれ関わる人間は選べ』だの、大層な説教してきやがったけど、周りの空気に合わせて人を見ないそういう偏見っての俺は嫌いなんだよ」

「しかし、彼らが言っていることは間違っていませんし……」


「おっさん達から聞いたよ。都を見捨てたって話だろ?」

「……ええ」


「あのなぁ……その時の沙羅神はお前らじゃないし、もう関係ねぇだろうが。あのおっさん達、俺が人を見る目がないって勝手に決めつけやがって……少なくとも、お前ら二人が悪い人間じゃないのは間違いねぇし、昔の話にいつまでも縛られてる他の連中の方がよっぽどおかしいっての」

「……」


 俺が正直に口にすると、夜波と月華は驚いた様子で視線を向けてきた。なんか変なこと言ったか俺?


 そんな俺を見た後、夜波と月華は顔を合わせると突然小さく笑い始めた。


「な、なんだよ、いきなり……」

「いえ……あなたは『神隠し』関係なしに『そういう人』なんだと思っただけです」

「はい! 姉上様の言う通り、こんな方は初めてお会いしました」


「なんか含みのある言い方だな……。別に良いだろ、本当のことなんだしよ」

「ふふ、そうですね……さて、あなたには母や月華のことで礼をせねばなりませんね」


「ん? 礼ならさっきも言ってたじゃねぇか」

「そういう意味ではなく、何か返礼が必要だということです」

「別に要らねぇよ。見返り求めてやったわけじゃねぇし、その薬で母親が元気になってくれりゃそれで良い」


「そ、そういうわけにはいきません。これだけのことをしてもらって何もせずに返しては失礼になってしまいますし……」


 俺の言葉に、夜波は困惑した様子を見せていた。

 律儀っつーかなんというか、責任感が強い奴だな。けどまあ、やっぱりこいつは信用できる奴ってのはよく分かる。


 見返りを求めるつもりは全くなかったが、これじゃ話が付かなさそうだし、ひとまず俺は無難なことを言って譲歩してやることにした。


「だったら、もう少しこっちの世界のことを教えてもらえないか?」

「え? こっちの世界のこと……ですか?」

「ああ。後で役所に顔を出すつもりだけど、その前に色々と知っておいた方がいいと思ってな。それが礼ってことでどうだ?」


「それは構いませんけど……本当にそのようなことで良いのですか? 金銭などお渡しすることもできますが……」

「要らん要らん。金ってのは汗水垂らして得た時が一番良いんだよ。バイトの給料日がどれだけテンション上がると思う?」


 居酒屋のバイトの給料日を思い浮かべ、頷いてみせる俺。残業とかして給料がいつもより高い時はまた一段とテンション上がるんだよな……。


 しかし、二人には通じなかったようだ。というか、とっさに横文字で話してしまう癖が抜けきらず口にしてしまったため、バイトやテンションの意味が通じていなかった。


「ばいと? てんしょん?……姉上様、なんのお話をされているのでしょうか?」

「さあ……私にもよく分からないけど……」

「あー……まあ、要は仕事の対価としてもらった方が良いと言うか……ともかく、仕事した後にもらった方が嬉しいってことだ。それに、お前にはここに案内してもらった恩もあるし、それでチャラだろ」


「それはそうですけど……それでは月華だけでなく、母を助けて頂いたお礼にならないと思いますが……まあ、無理矢理お礼を返すのも失礼ですね。では、いつか何かしらで返すとして、今はあなたの言う通りこの世界のことをお話することでお返しとさせて頂きます」

「ああ。それで頼む」


 こっちとしてはあまり責任を感じて欲しくないんだが……まあ、俺もこいつには恩があるし、ここは言いっこなしだ。譲り合いし続けても意味ないしな。


「ただ、以前も言ったように私……というより、沙羅神の人間が知れることは限られていますので有益な情報はあまり渡せないと思いますよ? 見ての通り、私達は世間から隔離されていますので……」

「大丈夫だって。実際、そこまで詳しく話されてもこっちに来たばっかだし、こっちも整理できる情報に限界があるしな。そういや、この世界には地図とかないのか?」


「地図……ですか?」

「ああ。正直、まだ実は俺の居た日本に居るんじゃないかって希望があるんだよ」


 とは言っても、俺の居た日本じゃ武器を出したりすることもできないし、持っているだけで法律に引っ掛かるけど。でもまあ、本当に異世界に来てるなら、それはそれで地図を見てイメージを変える必要はあるよな。


「ありますよ。確かここに……あぁ、ありました」


 そう言って、部屋の奥にある棚から大きな紙を取り出す夜波。にしても、異世界の地図か……どんなもんが出てくるか楽しみになってきたな。


 少しテンションが上がってきた俺の前で夜波が座り、地図を広げてくれる。


「これが私達の世界の地図です」

「ほう、どれどれ―」


 俺はこれまでゲームのような感覚じゃなかったとは言い切れない。どこか別の世界に来た、というよりはまだゲームや漫画、小説の世界に来たという方がイメージが付きやすかったのだ。


 だが、俺はそんなイメージは覆されることになる。

 この目の前の広げられた地図によって。


「―はは、こんなもん見せられたら信じるしかねぇよな」


 目の前に広がる巨大な地図。

 しかし、そこに描かれていたのは俺のよく知る日本の形だけが切り取られ、まるで湖のようになっている巨大な大陸だったのだ―。

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