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ホームカミング ―恋人を蔑ろにされたので、この国のために生きるの卒業します―

作者: 野本ひかる

 夕陽の丘を、メルヴィは走っていた。


 今日の夜には、ディランが帰って来る。そのときまでに家に帰って、彼を出迎えてやらないといけない。


 ディランは皆に嫌われている。いつも独りだ。

 

 彼は美しい男なのに。さらさらの銀の髪を後ろで一つに結び、冷たい水色の瞳に長い睫毛。鍛えられた体にはたくさんの傷があるが、それすらも芸術品の一つのような。


 ディランは、皆のために、たくさんの魔物を倒してきた。魔物はもとはその地に住まう神々だったが、国を護る結界が年月を経て弱くなると、魔物という形をとって人間を攻撃するようになった。

 たくさんの人たちが、困ってディランを頼った。ディランは命をかけて魔物を討伐し、その呪いを一身に受けた。

 

 いつからだろう、彼に触れられると災いが起こり、姿を見るだけで不幸になると囁かれはじめたのは。

 

 人々は結局、神を、呪いを畏れる心に負けた。ディランのおかげで先祖代々からの土地に住み続けられるのに、元神殺しの責任はすべてディランに押しつけ、彼を忌み嫌うようになったのだ。


 ディランは人間を信じなくなった。

 子どもの頃からずっと一緒にいる、メルヴィ以外は。


 メルヴィはディランの唯一の良心であり、希望であり続けた。それを重荷に感じたことは無い。いつもディランは優しく、頭を撫でてくれる手は温かく、畑仕事や家事で忙しいメルヴィを手伝ってくれる。


 過酷な魔物の討伐のあと、体も心も傷だらけになったディランが辿る、家路はとても長い。

 帰り着いて誰も居なかったら、家の中が暗く一人きりだったら、俺は死んでしまうかも知れない、とディランは力無く笑って言った。

 

 彼はもう、限界だ。


 メルヴィは、ディランを解放してやりたかった。もう誰にも彼を悪く言わせたくない。彼の優しさ強さを利用しするだけ利用し、感謝を忘れた、愚かな人間たちから。


 メルヴィは国の護りの結界を壊した。それは案外簡単なことだった。とある場所の、手入れのされていない藪の中、昔高名な魔術師が施した結界の石を、谷底の湖に投げ捨てるだけだった。

 

 あとは国の権力者が、そして今まで守ってもらってばかりだった人たちが、何とかするだろう。ずっとすべてをディランに押し付けていたのだから。


 家に帰ってディランを迎えたら、一緒に国を出よう。準備はもうできている。そして、新しい地で、2人だけの幸せを探して生きていくのだ。


 丘を駆け抜けるメルヴィの影を、沈みかけた夕陽が長く伸ばしていた。


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