8:私の名前は――――。
青年騎士さんがトイレから出てきて、茫然自失としていた。
長かったから、大もしたな?
ってか、トイレで何かあったのかな?
もしや、トイレットペーパー切れたとか?
でも、ペーパーホルダーの下に、ぶら下がってたよね? 名前わかんないけど、妙にふかふかの布の予備トイレットペーパー入れのやつ。
「あの、騎士団に入りませんか?」
「はいぃぃ?」
青年騎士さんにガシッと腕を掴まれて言われたのは、まさかの騎士団への勧誘。
「アホか! 女は騎士団に入れねぇよ」
――――あ、入れないんだ?
「説明しなさい」
エアリスさんが私と青年騎士さんの間に入ってくれた。掴まれていた腕もそっと解放して、後ろに隠してくれた。
エアリスさんいい人だな!
「このトイレ、凄すぎます」
「は?」
「一度このトイレを使ったら分かります。二度と他のトイレは嫌です。というか無理です!」
「「はぁ?」」
青年騎士さんが、なぜか他の騎士さんたちにトイレの説明をし始めた。
便座に座り、用をたせること。トイレットペーパーのふかふか具合。水で流せること。石鹸で手を洗えること。ふかふかのタオルで手を拭けること。
――――ん?
いや、別にいいんだけど、なんか当たり前のことも言ってる気がするけど、この世界のトイレ見てないからなぁ。なんとも言えない。
「……道中、各々で確認しましょうかね?」
「そうだな。俺はさっきうんこしたからなぁ」
「ゼファー! 女性の前ですよ!」
「女性の前ったって、結局コイツにクソしてぇって言わないといけねぇだろうが!」
ヒゲおじさんがエアリスさんと言い合いつつ、親指で私を指さした。
確かに、トイレ出してって言わないとだけど……。
「いや別に、どっちするかの宣言とかいらないですけど」
ついでに『トイレ』と言って収納したら、なぜか騎士さんたちから拍手が起こった。
冷静に考えると、ちょっと恥ずかしいんだけど。
トイレトイレ言いまくって、トイレの話ばっかりしかしてないのよね、私。
「とりあえず……あ、お名前をお伺いしてませんでしたね」
困り顔のイケメン、すごい破壊力、とか妄想している場合じゃない。
なんということだ! 本当にトイレしか話してないじゃないか。
「東陶 流子です」
「ヒガ……?」
「あー、あだ名は『ルコ』とかで呼ばれてますです」
「では、ルコと呼ばせてもらおう」
もう一度よろしくと挨拶して、出発することになった。
私はエアリスさんの馬に乗せてもらえるらしい。