5:トイレがレベルアップした。
ドドドドド、と妙な地響き。
何個も重なったような、何がが走る音。
なにかの動物が襲ってきたとか?
それとも盗賊たちの演技で、誘き出そうとしているとか?
トイレに座ってウーンと考えていて、足元にある大量のトイレットペーパーに気づく。
夜座るために敷いていたやつだ。
とりあえず邪魔だし丸めてゴミ箱に入れたところで、また気づく。
「ゴミ箱!? ってか、手洗い場も付いてるじゃん!」
ちょっと古くさい、三角形の蛇口レバーがついている、水道。
ひねると、普通に水が出た。
ちょっと迷ったけれど、カバンからマグボトルを出して水を注いだ。そして、意を決してコクリと飲んだら、普通に飲めた。
冷たくて美味しい、普通の水。
無言でもう二杯飲んだよね。
トイレの手洗い場だけどさ、会社のトイレとか、手洗い場に並んで歯磨きしたりする人もいるし、いけるでしょ! って思っておかないと、喉の渇きがギリギリだった。
ドドドドドが近づいて来ている問題は、なーんにも解決してないけど、喉の渇きは治まった。
「隊長、ヤツらを追いますか?」
「こちらも散り散りになるのは避けたい」
なんとなくさっきの盗賊たちと違う声と、違う話し方。
声を殺して耳を澄ませる。
「奴らがこれを取り囲んでいたんだな?」
「はい、遠見で剣で攻撃しているのが見えました」
「それにしては、傷がどこにもないな」
ドアノブがガチャガチャと動かされた。
「ドアは一定値を超えると、反発魔法が発動するみたいだな」
「建物にも強化魔法がかけられていますよ」
――――もしやここって、剣と魔法の世界!?
よくよく考えればそうだ。トイレを出したり消したりなんて、魔法じゃなきゃ出来ないもんね。
ということはだよ、魔法が使えるってことよね? 私も! どうやって使うか知らないけど。
唯一わかることは、このトイレは私の要塞ということだ…………トイレが要塞。そこはかとなくダサいけど、まぁいい。
水洗トイレ万歳だし。
洋式にレベルアップしたし。
手洗い場もあるしね!
トイレ万歳! と両手を挙げたところで、コンコンコンと優しいノック。
「聞こえますか?」
「……」
結構優しい声だった。
さっきガンガンに怒鳴られていたせいかもしれないけども。
「私は王国騎士団・第三分隊の隊長、エアリス・バラークです。もしお困りのことがあれば、手助けをしたい。盗賊たちは既に立ち去っていますので安心してください」
これはもしや、大草原から抜け出すチャンスなのでは――――?