3:トイレで一夜とか、終電逃してもしないでしょうよ。
意気揚々と歩いていたけれど、割と早めに歩くのしんど! となった。
そもそもだ、パンツスーツとはいえ、履き物はパンプス。
草原とか歩きまわれる装備じゃない。
夕方に近くなってきても、まだ大草原。あ、でも、若干山が近づいてきたかもしんない。
ポテポテ歩きながら、物語とかゲームだったら、山の近くとかに小屋とか小さな村とかあるけど、異世界もあるんだろうか? なんて考えた。
たぶん、なんか意味があってそう設定されてるんだろうし。
とりあえず、第一目標は山の麓。
夜になったら、休む。
――――どうやって休むのよ。
小枝もない、大草原。草はあるけれど、生だから燃えにくいだろうし、燃えても臭いパターンだとと思う。
それに火をつける道具なんて持ち合わせていないし、カバンの中身に期待は持てない。
ペットボトル半分のグレープフルーツジュース。
空のマグボトル。
息スッキリな飲み込むタイプのタブレット。
グレープフルーツのど飴が六個。
同僚からもらったチョコチップクッキーが二枚。
化粧道具と緊急用の生理用品。
あと、電源切れのスマホ。
めちゃくそ詰んでる。
あと、グレープフルーツ好きだな私。
「トイレ」
尿意はある。
空腹も、喉の渇きもある。
水はトイレにあるが、飲んだら負けだ。
グレープフルーツジュースは、余計に喉が渇きそうだから、もろもろをぐっと我慢して、のど飴を舐める。
どんどんと日が沈みだして、流石に夜も歩くのはまずいだろうとなった。で、普通ならキャンプとか考えなきゃだけど、結局は大草原なのよ。
「トイレ」
トイレを呼び出して、中に入る。
紙の無駄遣いは許してくださいとか、神だか仏だかに謝って、便器の横のスペースに大量のトイレットペーパーを敷き詰めた。
そしてそこに座る。
便器が一段上がっている仕様で良かったと心から思った。平面にあぐらよりも、段差に座るほうが足腰が楽だったから。
とりあえず、これで寝るしかない。
頑張れ、私。頑張れ、二十八歳の身体!
トイレで一夜過ごすとか、どこの酔っぱらい感だけど。終電逃してても、この年齢ならもうちょっと他の方法があるよね。元の世界ならだけど。
そんなことをつらつらと考えていたけれど、歩き疲れていたからか、すぐに眠ってしまった。
ガタガタ、ガチャガチャ、トイレを地味に揺らされたのと、騒音で目が覚めた。
ドアノブがめっちゃ回されてる。
鍵かけといて良かったわー。って、ちがう!
これ人だ!
慌てて鍵を解除して、トイレのドアを開けた。
相手が誰かとか、安全かとか、全く考えもせずに。
「うぉわぁぁぁ!?」
目の前にいたのは、なんかボロボロの剣を持った、臭モサで目がギラついた、物語で見たような盗賊風な人たちだった。
――――死ぬ!
大慌てで、ドアを閉めて、鍵も掛けた。