202:お弁当を届けに。
エアリスくんからの希望もあり、お弁当を作ることになった。ただ、元の世界と違うのは、お弁当をお昼くらいに届けるということ。しかも一緒に食べる気らしい。
それ、デリバリーランチじゃんよ? と思ったのは内緒。
エアリスくんを仕事に送り出し、少しのんびりしてから作業に取り掛かった。
中身はめちゃくちゃ簡単なんだけど、念のためにちょっとだけ時間に余裕を持って。
「さすがに、これだけあれば足りるよね?」
「ええ。大丈夫ですよ」
執事のトマスさんが太鼓判を押してくれたから、たぶん大丈夫だろう。そもそも、もっと増やしたほうがいいと言われて、最終的に十人前くらいになったけど。明らかに多いと思うんだけど、トマスさんが絶対に必要だと言うから信じることにした。
「んーじゃ、行きますか!」
馬車に乗って騎士団舎に向かうと、入口の警備の人にめちゃくちゃ丁寧に挨拶された。なんでだろうと首を捻っていたら、トマスさんがエアリスくん家の紋が入った馬車だからだと言われた。
なるほど。やたらめったらどこにでも付けられてる家紋って、そういう役目もあるのか。
エアリスくんの執務室を目指して騎士団舎内を歩いていると、次郎くんに出くわした。
「やほー」
「お久しぶりです。トイレ、ありがとうございます」
「いーよー。私は置いただけだし、お金ももらってるっぽいし」
そう言うと、次郎くんに苦笑いされてしまった。お金の管理はちゃんとしましょうよ、と。
「ところで騎士団に何かご用ですか? エアリス殿でしたら、さきほど訓練場に走っていかれてましたよ?」
「え? そうなの?」
次郎くんに案内してもらいつつおしゃべり。
「あれ? お弁当だよ」
「へぇ、お弁当かぁ。懐かしいですね。でも、お弁当にしては多いけど」
「だって、トマスさんが絶対必要だって言うんだもん」
「……なるほど」
なにがどうなるほどか分からないけど、トマスさんと次郎くんは分かり合えたのか、頷いていた。
訓練場に着くと、人が空を舞っていた。ザシュゥゥゥと地面を滑るように転がる人もいた。
何の惨劇かと思ったら、中心人物はゼファーさん。
――――なるほど、ゴリラか。
そりゃ人も飛んでくだろうな、と思った私は悪くないと思う。あと、トマスさんがボソリと「血が騒ぎますな」とか言ったのは聞こえなかったことにした。





