193:泡風呂に入る理由。
久しぶりに子供用の歯磨き粉を使ったら、脳天を突き抜ける甘さだった。エアリスくんのやつは以前使ったことがあるから知ってる。フローラルがあまいけど、結構ちゃんとミント的なのもあるんだよね。
エアリスくんの目の前でうがいするのって、ちょっと恥ずかしかった。流石に、ガラガラ・カーッ・ペッ! のトリプルアタックはしないけどさ。それでも吐き出すのは吐き出すからね。
「……ちょっと恥ずかしいですね」
「うん」
その感覚はエアリスくんも一緒だったようで、なんでか少しだけホッとした。
明日の朝も他の歯ブラシと歯磨き粉も試してみるらしい。よろしくねと伝えた。
ユニットバスを出した部屋に戻って、今度はアメニティセットを出してみることに。
「安めのホテルのはいま出てるやつだから……」
ちょっと高級なホテルタイプ、海外のホテルタイプを出してみることに。大人のホテルタイプは、なんか墓穴と煽りが酷いことになりそうだから止めた。
「あ、入浴剤か!」
海外のホテルタイプを出してみて気付いた。泡風呂用のミニボトルがあったのだ。
入浴剤も色々と指定が出来そうだ。
「入浴剤、ですか? 石鹸とはまた違うのでしょうか?」
「うん、違うよ。あ、これは泡風呂だけどね」
「泡風呂?」
エアリスくんが新たに出てくる単語に首を捻っている。とりあえず見たほうが早いからと、泡風呂の液体を浴槽に入れてシャワーでお湯を溜め始めた。
「シャワーでお湯を溜めると、湿気がひどいし、時間が掛かるし、ぬるくなるのでは?」
「あー、そう言ったけど、泡風呂の時はシャワーがいいんだよ。……ほら見て?」
浴槽を覗き込むよう言うと、エアリスくんが驚いていた。
「泡が凄いですね」
「ねっ? ね!」
「でも、なんのために?」
「…………」
――――え?
なんの、ために? え? 泡風呂……なんのために入るんだっけ?
「えっと、ふわふわしてるから?」
あとは、なんかいい匂いするやつあるし、ちょっと女子力高くなった気にもなれるし、非日常感があるよね。
「あっ! あと、襲撃されても局部を泡で隠せるから!」
ふと、うんこ漏らしながら戦うゼファーさんを思い出したというか、想像してしまったのは、秘密だ。墓の中まで持っていきたい。特に本人にはバレたくない。
公的に死ねる気がする。
「それは、その……利点ですかね?」
「…………利点でしょうよ」
――――たぶん。
このあとちょっと変な空気になったのは、私のせいじゃないと思いたい。きっとゼファーさんのせい。