192:甘い。
電動シェーバーを使ったあと、エアリスくんは何やら一人で感動していた。
「ヒリヒリしません」
「へぇ」
「ツルツルしてます」
「ほむん? あ、ほんとだ」
エアリスくんの頬を撫でると、さっきまでのふわチクがなくなっていた。エアリスくん的にはゼファーさんにも使わせたいらしい。
なぜなんだろうと聞いてみると、ゼファーさんは髭が濃いうえに伸びるのが早いらしく、夕方前には青髭になるのが嫌で顎髭や無精髭で誤魔化しているらしい。
「確か、あんまり長いのはこれじゃ剃れないらしいけど…………まぁ、ゼファーさんくらいならイケるのかな? 充電は暫く持つと思うから、明日試してみよ?」
「はい」
次に出すのは、歯ブラシと歯磨き粉。
どうする? いろんな種類があるから、色々出してみるのも手だよね?
ヘッドが薄くて奥歯まで届きやすいやつ、ブラシの毛先が超極細毛のやつ、ハードタイプにソフトタイプ、私が愛用していたブラシ部分がシリコンで出来てるやつは二つ出して、一個はキープ。
次に歯磨き粉。美白用のやつ、殺菌能力高めのやつ、タバコを吸う人用のやつ、フレーバータイプのフローラルなやつ、子供用のぶどう味のやつ、これまた色々と出してみた。
こういうことをすると、備品枠が直ぐに埋まっちゃうけど、ユニットバスの外に出すと枠が回復するの、ほんと謎なんだよね。
ありがたいからいいけどさ。
「ユニットバスの洗面台狭いから――――」
「こちらに」
エアリスくんに手を引かれ歩いていくと、エアリスくんのお部屋のお風呂場に来た。
私の部屋のとあんまり変わらない気はするけど、なんだかソワソワする。
「ルコはこのゴムのようなものが好きなんですよね?」
「シリコンね。結構強めに磨いても歯茎が痛くないから好きー」
久しぶりの現代の歯ブラシだと喜んで返事したら、エアリスくんが右手の甲で口を押さえてそっぽを向いた。
「なぜ照れた……」
「っ、あまりにも無防備な笑顔で……ちょっと来るものがありました」
何がどう来たのか分からないので、サクッと無視してさっさと歯磨きして遊べと言うと、エアリスくんがクスクスと笑い出した。
「歯磨きで遊べ、ですか。ふふふふっ、初めて聞く言葉ですね」
クスクスと笑いながらエアリスくんはフローラルのやつを試すそうだ。私は子供用のぶどう。使ったのって子供のときだから、どんなんだったかなぁと興味本位で。
「「甘い」」
口に入れた瞬間、二人で同じことを呟いて、またクスクスと笑った。