19:寝床とトイレ。
食事を終え、お皿洗いを手伝いながらふと気になったことを聞いてみた。
「そういえばさ、エアリスくんは洗浄魔法使えるんだよね? お皿洗い一瞬で終わるんじゃ?」
「…………ルコ、流石にそれだけのために魔力を消費するのは駄目だろ」
カレルくんに呆れたような目で見られた。
洗浄魔法は、そこそこに魔力を使うらしい。それなのに、私に掛けようとしてくれたのか。…………勘違いの理由は酷かったが。
優しいのは、優しいんだよね。理由は酷かったがっ!
「呼びました?」
自分の名前が聞こえたと、騎士さんたちに指示していたはずのエアリスくんが近付いてきた。
なんでもないと言ったけど、あんまり納得していなさそうな顔。
「ほんとに、なんでもないよ」
「そう、ですか? あ、それが終わったら、休みましょう」
「はい」
にこりと微笑まれたので、ニコッと笑い返した。その瞬間、エアリスくんの後ろのほうにいたゼファーさんの難しそうな表情が、妙に気になった。
「え……?」
「ですから、ルコは私と一緒のテントで寝ます」
諸々の作業を終わらせ、トイレを出しておく場所も決めて、さぁ寝よう! となった。
エアリスくんが、私の寝るテントもあるから大丈夫、って言ってたっけど、それがエアリスくんのテントだとは聞いていなかった。しかも、エアリスくんと一緒に使うとは。
「魔獣が襲ってきたときに離れていては、ルコを護れませんので」
「え、じゃぁ、トイレの中に――――」
「何度も起こされますよ? 騎士の中で一番安全で、一番戦えるのは私です」
――――安全?
「一番安全なのは、俺だろうが」
ボソリと聞こえた低い声。
不機嫌そうな、ゼファーさんの声だった。
「安全って、何がです?」
「俺は妻帯者だからな。何があっても、嬢ちゃんに手は出さねぇよ」
「ぬほぁん。ってか、ええぇぇぇぇ!? そんなんで嫁とかいんの!?」
このデリカシー皆無の顎ヒゲ、妻帯者って言ったけど、何があったら嫁とか手に入れられるの!?
「……おい。どういう反応だ? あぁ?」
「いや……あはは?」
「ゼファー」
「チッ」
エアリスくんが顎ヒゲおっさんの名前を呼んだ瞬間、ゼファーさんが舌打ちしながら去って行った。
いったい、なんなのよ?
「ルコ、中で少し話しましょう」
「え? うん」
するりと手を握られ、エスコートするようにテント内へと誘われた。