186:とりあえず、出していい?
「エアリスくんって変なとこで悩むね」
「……好きな人に嫌われるのが、こんなに怖いとは思いませんでした」
「あー、確かに」
好きだからこそ、いろいろと怖くなることってあるよね。長いことその感覚から離れてたから、ちょっと忘れてたや。
「とりあえず、私はそこまで気にしないよ。今回は、だろうけど」
「っ、はい」
「でさぁ、とりあえず、出していい?」
「…………何をでしょうか?」
エアリスくんが恐る恐るといった雰囲気で聞いてきて、そもそも話していなかったことを思い出した。話したのは侍女さんにだ。
「いやね、ユニットバス出せるんじゃね? ってなっててさ、どうせならエアリスくんと一緒に楽しみたいじゃん?」
新しいの出す時って、結構イベント感あるんだよね。どうせならワーワー楽しみたい。
「ユニットバス、とはなんですか?」
――――あ、そうか。
この世界は、西洋感たっぷりだけど、トイレがアレだから、ユニットバスってないんだ。たぶん、名称が違うとかじゃなくて、一緒になることがないんだと思う。
「えっとね、トイレとお風呂が一緒になってるの」
「…………異世界では、お風呂の中で用をたすのですか!?」
なんでそうなる。やめろ汚い。小学校のプールレベルのタブーを犯すな。
ワンルームの中に、トイレとお風呂が共存している感じだと説明したが、いまいち想像ができなかったらしい。私の説明能力なのか、この世界にないから想像が難しいのか。
とりあえず、出してみて、出たんなら見てみりゃ分かる! という、なんとも脳筋な返事をしておいた。
「ユニットバスってかトイレ!」
ふと思う。ユニットバスって、お風呂がメインの名称だな、と。海外はバスルームって言うしね。え? イケるの? とかなんとか考えつつも、よくある一人暮らしのワンルームにあるユニットバスを想像した。
「……まぁ、いつものドアだね」
ちょっと違うのは、いつもは床とドアはフラットというか、同じ高さだったのに、今回は十センチほどの段差があった。
恐る恐る丸いドアノブに手を伸ばす。
出てきたから、たぶん大丈夫だと思うんだけど、最後の『トイレ』だけに反応して、普通のトイレが出てきている可能性もなきにしもあらず。
――――いざ、尋常に、勝負!
エアリスくんに、何と戦っているんですか? とか聞かれたけど、無視無視。心の声が漏れたやつに反応しないで欲しい。