178:うんまー!
エアリスくんは、てっきり食べているものかと思っていたら、食べていなかったらしい。
「いや、なんでよ?」
「ルコが……その…………」
私が来る嬉しさのあまりお腹の減りに気づいておらず、ちょっと本当に来てくれるかの謎もあったせいで喉を通らなかったらしい。
なんだよ、可愛いかよ。
「言われて空腹だなと、今」
「健康のためにもさ、ご飯はちゃんと食べてよ」
「……はい」
「できるだけ病気とかせずにさ、一緒に楽しく暮らしたいじゃん?」
「っ、ルコ!」
ぎゅむむむむっと力いっぱい抱き締められて、中身が出るかと思った。食後じゃなくて良かった。
準備ができたと呼ばれて、ダイニングに向かうと、どデカいテーブルに向かい合わせで席の準備がしてあった。
エアリスくんがそれをじーっと見ている。
「……遠い」
「なにが?」
「あっ。いえ、ルコとの距離が遠いなと」
「テーブルちょっと大っきいからでしょ。遠いってほどでも――――」
「隣に移動させてくれ」
エアリスくんがムキムキ執事のトマスさんに、席の変更を命じていた。
トマスさんはニタニタしながら給仕っぽい人に伝えていたけど、あの笑みはオーケーなんだろうか? ちょっとゼファーさん味を感じる。
「よろしいですかな?」
「あぁ」
「えと、ありがとうございます」
お礼を言うと、スッと会釈された。
そしてそれを待ち構えていたかのように、料理たちが運ばれてきた。ハーフコースくらいの量がある。
エアリスくんいわく、ひとつひとつ運ばれてくるのはあまり好きじゃないらしく、普段は一度に出すように言っているらしい。
ただ、温度は気にしなくていいと伝えているから、冷めているものもあるかもしれないと、少し申し訳無さそうに言われた。
レンジとか便利なものがある元の世界と比べたらそりゃそうだと思うし、私もそこまでのこだわりはない派だから、気にしない。
「いただきます」
ふとエアリスくんを見ると、普通にメインから食べだしていた。順番も結構好き好きにやっちゃっているらしい。あと食べるのが早い早い。私がサラダを食べている間にメインはほぼ消えかけていた。
「んっ、スープ美味しい。カボチャだ」
「ええ。今がちょうど時期のものですね」
「私カボチャ好きなんだよね。コロッケとかグラタンとかプリンとか、なんにしても美味しいよね」
炊き込みご飯も好きだったけど、あれは賛否両論だしなぁ。
「ルコは料理ができるんでしたね」
「簡単な家庭料理くらいだよ」
「いつか食べさせてください」
「いーよー」
そう言いながら、メインのステーキをパクリ。
「うんまー!」
口の中で溶けたよ! お肉が咀嚼ほぼなしで溶けたよ!? なにこれ。絶対に高級品だよね?
貴族、恐ろしや!