175:お世話になりました。
馬車に揺られながらぼぉっと外を眺める。
この勢いだと、今日明日には引っ越しになりそうだなぁ。てか、部屋ってどうなってるのかなとエアリスくんに聞いてみた。
「ルコの部屋は準備を終えていますよ」
「……いつから?」
聞いたら引くんだろうな、というのがわかっていながらつい聞いてしまった。
「二週間ほどまえに休みが取れたのでそのときに?」
なんでそんなことを聞くんだという顔のエアリスくん。気が早いなと思ってはいたけど、私の予想よりもう一段気が早かった。
「おおん。ありがとう」
「いつでも住めるようにしていますので、お待ちしております」
「それは、今日、って意味で?」
聞いたけれど、にっこり笑うだけで解答はもらえなかった。
ゼファーさん家の借りてる部屋で荷物を……まとめようがなかった。侍女さんたちが全部まとめ終わっていた。しかもレイラさんは餞別だとかいって、ジュエリーケースやいつの間にかぴったりサイズに調節されているらしいドレス類を渡された。
「何も返せないんですけど?」
「あら? トイレ、そのままにしといてちょうだいよ」
「え? それだけでいいんですか?」
「貴女、それだけってねぇ……」
ハァ、とどデカいため息をつかれてしまった。
だって私からすれば、ただ出してるだけであとは忘れ去っていると言っていい程の事なんだもん。
「それなら、定期的に備品を出しに来ますね」
そう言いつつ、持たされていたお小遣い袋を返そうとしたら、それも餞別だから持って行けと言われてしまった。餞別の額がエグいんだけど、元王女って……そんなものなのかな?
「えっと……ありがたく頂戴いたします」
「素直にもらっておきなさい。それから、何か困ったらいつでも言うのよ? 遊びに来てもいいからっ……」
レイラさんがだんだんと鼻声になってきた。毎日楽しかったのに、と呟かれてしまい、心臓がキュッとなった。
「近所じゃないですか、そんなこと言うと、本気でめちゃくちゃ遊びに来ますよ?」
「あははは! ええ、約束よ?」
「はい!」
夕方、ゼファーさんの帰りを待って、短い間だったけどお世話になりましたと挨拶をして、エアリスくんのお屋敷に向かった。
馬車、五分もしない内に降りたけど。
荷物いっぱいになっちゃってたから仕方ない。