172:カレー臭。
ハフハフ言いながらカレーを食べた。骨付きのタンドリーチキンは手掴みで。エアリスくんはフォークとナイフで食べていたらしい。
「食べ辛くなかったの?」
「…………食べ辛かったです」
ただ、手掴みで食べるのは考えもしなかったらしい。私がなんの迷いもなくガシッと素手でいったからちょっとびっくりしたそう。
「えへっ!」
いやほんと、目の前のタンドリーチキンが煌めいてて、なんの迷いもなかったよ。ガッツリ齧りついちゃってた。そしたら、エアリスくんが恐る恐る真似しだしてどうしたんだろうと思っていたら、そういう理由らしい。
「どういう食べ方しても、美味しいんだよ」
「ふふっ、そうですね。それなら、ルコと一緒の食べ方をします」
くっ、エアリスくんめ、なかなか攻撃力高めじゃないか。
モモを食べながらにこにこしているエアリスくんを見つめつつ、タンドリーチキンを食べ終えた。
手を繋いで夜市を通り過ぎ、貴族街に向かって歩いていると、エアリスくんがボソリと呟いた。
「帰る家が一緒ならいいのにな」
「…………」
それに関してはなんとも言えないなと、無言になってしまった。
エアリスくんは何やら動いてるらしいから任せっきりだったけど、流石にそれじゃだめだよね?
「私にできること、ある?」
「ルコ…………っ!」
エアリスくんがガバリと抱きついてきてキスをしてこようとしたけど、顔面を鷲掴みにした。
「ルコ?」
「いや、いまけっこう臭いのキツいもの食べたなぁって」
「関係ありません」
手首を掴まれてぐいっと引っ張られた。
「んぶっ!」
「ふっ、カレーの味がします」
「ふぶぉっ、言うな!」
「すみません、恥ずかしがってるルコが珍しくて、つい」
してやったり顔のエアリスくんは、ちょっと珍しい。
また顔を近づけて来たので、仕方ないかと受け入れる。
「ねぇ、婚約証書? できたら一緒に住む?」
「聴きましたからねっ!」
「うるさっ! 声でかっ」
そんなの関係ないとばかりに、再度エアリスくんがキスしてきた。今度は嬉しそうに、ねちっこく。
いらん煽りをしたけど、大丈夫だろうか。あと、最近エアリスくんがキスのレパートリーが増えてきてるな……一人で練習でもしてるのか?
「ルコ、口から漏れ出てますよ?」
「おっふ……」
デロンデロンにまたもやキスされた。エアリスくんはキス魔。心のメモ帳に書いとこう。