17:期待とデリカシー with トイレ。
十二人の騎士さんたち。たしか、エアリスくんが王国騎士団・第三分隊とか言ってたっけ? 十二人編成なのかな?
みんなちゃんと何かしらの作業をしている。隊長のエアリスくんさえも、普通にテント設営している。
私がいた会社はざっくりとしてて、『誰かがするだろう』感が凄かった。結局最後まで雑用が大量に残ってて、昨日もそんな雑用を見兼ねて片付けてから帰ったんだった。
……………………やべ、今日、もう夕方ですけど、無断欠勤やらかしてんじゃん!?
スマホの電源切れてるからどうしようもないもんなぁ、とか昨日の夜は助けとか連絡とか考えないようにしてたら、本気で忘れてた。
――――アホすぎる!
「といれぇぇぇ!」
「どうした? 急に。腹壊したか? 下痢か?」
顎ヒゲがうるさい。乙女はそれくらいでは慌てませんっ! 昨日、マジで慌てたけどっ。それは知られていないはず。
トイレのドアを、大急ぎで開けた。
ウォシュレットがあるということはだよ? コンセントがないと、動かないわけよ! どうよ? 私天才じゃね――――。
「なんでぇぇぇぇぇぇ!」
ウォシュレットから伸びるコードを目で追い、絶望。壁に埋まっていた。
絶望のあまり地面に膝と両手も付いちゃうってもんだ。
「どうした? 漏らしたのか……。誰か! コイツのケツに洗浄魔法かけてやれ!」
顎ヒゲおっさんデリカシーなしゼファーが、背中をぽんぽんと叩いて、なんか優しい風に声をかけてきたが、デリカシーなさすぎる。
「……うるせぇヒゲ。洗浄魔法はトイレに付いてんだよ。乙女はクソなんてしねぇんだよ…………」
「おまっ、口悪っ!」
「うっさい! いま凹んでんの! ハゲ!」
「いや、禿げてはねぇよ……」
「ハゲェェェェェ!」
わりと期待した。コンセントの存在。
だから、びっくりするくらいに悲しくて、涙がポロポロ出てきた。
「おわっ!? 泣くな泣くな。俺が悪かったから。デケェ声で言ってすまなかった!」
「ぢがぅゔぅぅ」
「ゼファー! なにを泣かせてるんですかっ!」
エリアスくんが慌てて駆け寄ってきて、抱き締めてくれた。煌々しいイケメンに、ハグだぜ!? 現金な私は一瞬泣き止んだ。
「ルコ、大丈夫。大丈夫ですよ。いま洗浄魔法かけますからね?」
「ちげぇぇぇぇぇぇぇ! エリアスくんのハゲェェェェェ!」
「あぁっ、泣かないでくださいっ」
よーく分かったこと。
・男ばかりの騎士団は、どんなに爽やかなイケメンでも、わりとデリカシーがない。
これをちゃんと胸に刻んでおこうと思った。