169:お腹いっぱいだと、寝るよね?
知覚過敏疑惑と戦いながらも、オレンジタルトもしっかりと堪能した。
「ごちそうさまでした」
代金はどうやって払うのかを聞くと、エアリスくんの給料から引かれると言われた。エアリスくんの分がそうなるのはなんとなくわかる。でもなぜに私の分までなんだ。
五百ルドくらい普通に払えるのに。
この世界というか騎士道に近い考えらしいけど、『女性にお金を使わせない』というものは、いつまでも馴染めそうにない気がする。
見習い騎士さんたちは、午後から木剣を使った訓練をするらしいので、私はここで離脱。
またエアリスくんの執務室に舞い戻ることにした。
「ふぅ。お腹いっぱい。眠ったらごめんね」
昼食後は、どうしてもうつらっとしてしまうので、先に宣言しておいた。
そして、宣言通りに居眠りこいてみた。
満腹と昼の気温と程よい疲れは、なぜこんなにも相性がいいのか。舟を漕いでいるなとわかっていながらうっつらうっつら。
ふと、浮遊感と温かさを感じるなと思ったら、いつの間にかエアリスくんの膝の上に座って、抱き着くようにして寝ていた。
「んあ? おはおー?」
「よく眠れましたか?」
「んー。うん。エアリスくんの肩によだれ垂らすくらいには」
ジャケットにちょっと染みつけちゃったよどうしよう。
「ふふっ。気にしなくて大丈夫ですよ。ご褒美です」
「それは流石に気持ち悪いっ!」
被せながらに言ってしまったが謝らんぞ! とエアリスくんの膝から降りた。そもそも、なぜに抱きかかえられていたんだ?
「休憩しようと思いまして」
――――どんな休憩のしかたやねん!
エアリスくんのナチュラル気持ちわ……ゲフン。ナチュラル甘えん坊? 甘えん坊でいいのか? な感覚にちょっとだけドン引きした午後だった。
「よぉ! ルコ、帰るか?」
応接スペースでお勉強を再開していたら、ゼファーさんが迎えに来たので、ほんじゃ一緒に帰ろうかなぁ、なんて思いつつ頷いて勉強道具を片付けていたら、エアリスくんがガタリと立ち上がった。
「私が送りますから!」
「はぁ? お前どうせ残業すっだろ?」
「え、残業するの? 道連れはやだよ?」
脊髄反射でついそう答えていた。
エアリスくんの眉がしょんぼりしてしまった。
「二人ともそういうところが本当にそっくりですよね……残業はしませんっ。あとゼファー、勤務はまだ一時間ありますが?」
残業しないのか。それならまぁ、エアリスくんと一緒に帰るか。
ゼファーさんに関しては知らんけども。一時間も前から帰るムーブかまさないで欲しい。流石に早すぎる。