168:美味しいと痛いのせめぎ合い。
お腹いっぱいになって、ふへぇと休んでいたら、隣のテーブルにいたカレルくんがデザートを食べていた。なんかおしゃれなケーキ。紫色で三層仕立てのムースっぽいやつ。
「なんぞそれ!」
「デザートですが?」
見りゃわかる。それも五百ルド内なのかと聞くと、周りに座っていた騎士さんたちにクスクスと笑われてしまった。
「食べ放題ですよ」
ニコニコ笑顔でこっちを見るな。
エアリスくんの微笑みが癪に障る。
「もらってくるっ!」
カレルくんにデザートコーナーは、料理と別のところにあると指さされて急カーブでデザートコーナーに向かった。
到着した瞬間、危うく叫ぶところだった。
デザートコーナーが、ホテルのスイーツブッフェくらいある。なんだよ騎士たちよ、甘いもの大好きか! いいぞ、もっとやれ!
どれにしようかと悩みまくって、カレルくんと同じものと、オレンジタルトとバニラアイスを選んだ。
カレルくん曰く、紫色のは黒スグリらしいから、つまりはカシスってことよね?
「ただいまー」
「おしそうですね」
「食べるー?」
カシスっぽいムースをひと掬いしてエアリスくんの口元に差し出した。
「……あ。ごめん、つい」
何も考えずにあーんしようとしてたや。エアリスくんの目が点になっている。こりゃまずいと手を引こうとしたけれど、エアリスくんがその手をがっしりと掴んできた。
「ほへ?」
「あーん、します」
「あ、はい。どうぞ」
なんでか冷静になった。
たぶん、エアリスくんの耳がものっそい赤かったから。いつもならつられ照れをしそうなものだけど。
「美味しい?」
「はい」
エアリスくんがニコッと笑ったし、本当に美味しかったんだろうね。そら良かったねと言いつつ自分も食べてみた。
「あ、美味しいね。下の層はホワイトチョコのムースかな?」
少し酸味のある黒スグリと甘みの強いまろやかなホワイトチョコって、相性がいいよね。
二口、三口と食べ進めていたら、ペロッと食べ終えてしまった。
「ふぃぃ。あ、アイス溶けてる!」
慌ててアイスを食べてキーン。知覚過敏か……知覚過敏なのか…………歯磨きちゃんとしてるぞ?
頭が痛いのか歯が痛いのか微妙な痛みがあるな……気のせいにしとこう。歯磨きちゃんとしよう。あ、トイレから知覚過敏用の歯磨き粉出るかな? 出る、きっと出る。出せ、私っ!