166:えらいひと。
見習い騎士くんたちの後ろに座って、ノートとペンを出した。が、書き取れる気がしないので、とりあえずは聞くのみに徹した。
授業はいわゆる騎士道や礼節について。
武士道にも通じそうな気がするものもあれば、なんというか騎士というよりは貴公子的な気遣い、女性のエスコートまで。
あと、三時間ぶっ続けでの授業はエグいなと思った。飲み物は部屋の端に用意されていて、自由に飲んでいいし、トイレは行きたかったらそっと出てそっと戻れば良いらしいけど……こう、日本の授業体制に慣れていると、違和感でしかなかった。
見習い騎士くんたちは、先生に一礼してからトイレに立ってたけど……いや気不味いぞ!
一番気になるのは先生だ。
この人、がちのぶっ続けで授業やってるよ。そりゃ間に動作説明で動いたり、何人か名指しで前に立たせて、絡んだりのくだりはあったけど、ずっと立って話してくれている。
そりゃあ、騎士様だから訓練やらなんやらやってるだろうし、体力はものごっつくあるんだろうけど。
――――異世界怖っ!
授業終わりに先生に挨拶して、エアリスくんの執務室に帰ろうとしたら、教室の外にエアリスくんが待ち構えていた。
見習い騎士くんたちが、なんか妙にソワソワしてる。挨拶したいけど、出来ない的なやつ? って近くにいた子に聞いたら、小声で「だって、王族だぞ?」って言われた。
「畏怖的な?」
「憧れだよ! お前、新入りだから知らないのかもしれないけどな、お前を連れてきてくれたのは英雄だぞ?」
――――知ってます!
てか、あれ? 私もしや新人騎士と勘違いされてる? 男児と勘違いされてる!?
自己紹介し……てないな! ものっそいしてないな!
ゼファーさんが『特別ゲスト』って言っただけだったし、イバンさんに挨拶した後は、教室の後ろに座るよう言われただけだったや。
髪もちょっと短いし、間違われるのか? 乳……いやそんなにデカくはないけども、あるっちゃある。普通と言い張りたいけど、慎ましやかにあるからね?
しかし、初っ端から偉い人に会いまくっていたせいで感覚がおかしくなっていた。見習い騎士くんたちの反応が当たり前なんだよね。
「ルコ」
見習い騎士くんと話していたら、エアリスくんがカツカツと近づいてきて、腰をグッと抱き寄せてきた。近い近い近い。あと、見習い騎士くんたちがキョドッとしているよ。
「エアリスくん、近過ぎ」
胸をグイグイ押して離れようとしたのに、なぜか更にガッチリと抱き寄せられてしまった。
「お前たち、この人は女性だ。それくらいも分からないのか? イバン、礼節のマナーを追加しておけ」
「ハッ!」
エアリスくんのその言葉を聞いて、先生と見習い騎士くんたちがビシィィィと姿勢を正していた。