159:ハラヘリ。
いろいろとやっていたら、もう夕方になっていた。
時間に気が付くとお腹が減ってくるもので。たぶん三食逃してる。
飲み物や焼き菓子とかは出されてたから、それで誤魔化されていたけど、流石に限界が近い。
時間がある時に婚約証書を作ろうねとエアリスくんに言って帰ろうとしたけど、がっしりと腰を掴まれた。
「ちょ、帰ってご飯食べたいから! あと、エアリスくん徹夜したんじゃないの? 寝なよ!」
私は治癒でスヤスヤ寝ちゃってたけど、状況からしてエアリスくんは寝ていないはずだ。
腰を掴む手にチョップをして立ち上がろうとしたけれど、微動だにしなかった。
「食事なら用意させていますから」
「え、そうなの? いつの間に……」
どうやら、馬車の中でマチョォで色々とやっていたヤツの中に、ここに飛ばしたものが混じっていたらしい。
食堂に行こうと言われたので、素直に頷いた。空腹には勝てないし、ご馳走には更に勝てない。
手を繋いでお屋敷の中を歩いていると、メイドさんたちにギョッとされた。それはエアリスくんがニコニコだからなのか、恋人繋ぎをしているからなのか。
――――どっちもかな?
出された食事をモリモリと食べる。ハーフコースのようだったけど、正しい流れは一切知らない。ただ、明らかに肉が多い。いや、好きなんだけどね。
なんというか、男性向けの食事! って感じだった。ゼファーさんのお屋敷で出されるものともまた違っていて、面白かった。
「もう、帰るんですか?」
玄関で寂しそうに見つめてくるエアリスくん。
ちょっとしゃがんでとお願いすると、期待に満ち溢れた顔で少し腰を落としてくれた。
完全にキス待ちの顔で、唇を突き出している。
ちょっと間抜け顔のエアリスくんが可愛くて、本当は頬にするつもりだったキスを、唇にしっかりガッツリしてしまった。
「っ……ハァ…………泊まって行きませんか?」
「いやだよ。おやすみ!」
今度こそ頬にキスをして、エアリスくんのお屋敷を去ろうとしたけれど、エアリスくんがついて来た。
何してるのかと聞くと、私こそ何を考えているのかと言われて首を捻っていた。
「昨日、誘拐されたばかりでしょう? はい、さようなら、ってその場で別れるわけがないでしょう?」
「……うむ。そうだね!」
「ルコ」
どでかいため息を浴びた。
どうやら、完全に忘れ去っていたことはバレバレだったらしい。