156:ルコは?
エアリスくんのお屋敷は、ゼファーさんのお屋敷より少し小さめ……と言っても、メゾネットタイプのアパート三個分くらいはありそうだけど。
ほぼ部屋を使っていない案件だな?
「ルコ様、ようこそおいでくださいました。エアリス様、おかえりなさいませ」
「サロンは?」
「用意できております」
「ん」
ちょっとゴツめの執事のような人が恭しく礼をして迎えてくれた。白いおヒゲはカッコイイけど、なんというか猛者感が凄い。執事服のシャツの胸がパツンパツンしてる。
エアリスくんに屋敷内を案内してもらいつつサロンに向かったけど、執事さんが気になりすぎて屋敷内をどう歩いたか覚えていない。
「さ、ここですよ」
「おおん、ありあと」
三人掛けのソファを勧められてそこに座ると、リーチゼロで隣にエアリスくんが座ってきた。
「近いよ」
「…………恋人になったこと、忘れていませんか?」
「おあっ! おん、隣に座るよねっ!」
慌てて全肯定の姿勢を取ったけど、じろりと睨まれつつ顎クイッをされた。
「ななななにをなさりやがりますのかね?」
「すっかり忘れているし、ずっとトマスを気にしているし、私に集中してくれると嬉しいのですが?」
ちゆ。軽く触れるキス。
人前でするなと怒りたかったけれど、サロン内にいたはずの執事さんはいつの間にか消えていた。
「私たちの未来の話をしても?」
「ふぁい…………」
エアリスくん的には、急かしたくはないし無理強いもしたくはないそうだ。そしてまた、キスをしてきた。今度は深めのやつ。
「んぷ。話し合いにキスはなくていいんじゃ?」
「…………ふうん?」
――――あ、やべ。
エアリスくんの目が据わっている。ものすごく据わっている。
「聞きたくもなかった過去の男のことを、ああもハッキリと公表され凹んでいたら、今度は煽りに煽ってきたのは誰ですか?」
「煽ったつもりは毛頭ござうぃませんぐぁっ」
腰に腕を回してぐいっと抱き寄せられたせいで、声が裏返ってしまった。
「ルコ」
「へい」
「私はちょっと怒っています」
なんとなくそんな気はしている。謁見室のときから、漏れ出る空気がなんだか暗かったんだよね。笑ったり話したりしてても、ちょっとだけそれが出てて、本当は機嫌が悪そうだなって。
「好きな相手に、仕方なしに結婚を決められて、喜ぶ男がどこにいると?」
「っ……ごめんね」
「ルコ、私は本気で好きなんです」
「うん」
「貴女に愛されたいんです」
「うん」
「私は心から望んでいるんです、貴女と結婚したいと。ルコは?」
真剣な顔で聞かれてしまった。
いままでは誤魔化したり、茶化したりしていたけど、ちゃんと真面目に答えないと、本当に傷付けて後悔することになりそうだなと、反省した。