142:しゃあなし!
◇◇◇◇◇
なんかガッツリ寝こけてたなぁと、両手を前に出してうーんと伸びをして、妙な違和感を覚えた。
あったけぇ。そして、なんか程よく硬い。腰痛い。何かに抱きついてやしないか?
そっと頭を動かしたら、目の前に煌煌しいエアリスくんの顔。
――――ほへ?
状況が掴めなさすぎてぽかーんとしていたら、首の後をガシッと押さえられた。そしてねっとりと重ねられた唇。
――――ふおおぉ!?
割り入ってきた舌にビクリと震えたら、エアリスくんが慌てて離れていった。
「っ、すみません! ………………あの、頭痛は大丈夫でしょうか?」
「え……あ、うん。頭痛?」
あ、そういえば治癒士さんに治癒魔法をかけてもらったんだっけね。だんだんと脳みそが働き出したぞ。
頭痛というか後頭部痛はあったっちゃあった。
なぜに頭痛の心配かと思ったら、頭蓋骨にヒビが入っていたと言われてちょいとビビったよね。
そんなに痛くなかったよと言うと、悲しそうな顔をされてしまった。なぜに?
「痛みより、怖さが先にきていたんだと思います」
「怖さ……あっ。あー……」
完全なる殺人事件現場みたいになってたもんね。
いや完全にビビっちゃったんだっけね。一回寝たらスッキリしたのか、『まぁ、しゃぁなし!』って気分になってきた。
…………死んでないよね? そこはちゃんと確認しとこう。
「っ……」
「え!? 死んでっ……!?」
「いえ、一応生きてます。証言は取らねばなりませんし」
エアリスくんや、そのセリフはつまりは証言不要ならば……。という意味に取れるぞ?
じっとりと見つめたら、視線を逸らされた。
――――おおん。
いやまぁ、世界観の違いとかあるからね。特に戦闘が当たり前に職業として認められてるこの世界では、そういうこともあるんだろう。
拐われた私を助けに来てくれたのに怖がってごめんねと伝えると、エアリスくんがふるふると顔を振り、肩に頭を乗せてきた。
「大切な人を拐われて焦っていました。それとともに、貴女に頼られて、有頂天にもなっていました」
相手の力量を無視し、過剰に攻撃したらしい。まぁ、そうじゃないとああいう惨状にはならないよね。
エアリスくんが頭を肩にグリグリと擦り付けてくる。
「おぅぅぅ、くすぐったいよ?」
――――どうした?
ちょっと可愛いなと思いつつ、くすぐったさに身を捩っていると、エリアスくんが唇を首筋へと移してきた。
チクリと感じる甘い痛み。
「ちょぉい?」
「無事でよかったです」
「うん」
「護れなくてすみませんでした」
いや、そんな四六時中守れとかないから。こんなにも早く助けに来てくれただけで、めちゃくちゃ感謝してるから。そう伝えるけれど、エアリスくんはふるふると顔を振り、首筋をハムハムするばかりだった。
――――いやだから、くすぐったい!