140:治癒されて。
エアリスくんの顔を、真っ直ぐに見れない。
胸元を見たり、手を見たり、足を見てみたり。視線をどこに置こうか迷ってしまう。
「ルコ、私は――――」
「隊長、失礼します。治癒士が来られました」
騎士さんが部屋に入ってきて、エアリスくんの言葉が遮られてしまった。
エアリスくんは、なんでか寂しそうに笑ってる。
理由を聞きたいけれど、治癒士さんが部屋に入ってきたから、更に聞けない状況に。
「治癒を始めますので、お座りください。怪我の状態によっては酷く疲れたり、眠気が強くなりますので、お手洗いなどは先に済ませておいてくださいね」
「はい、大丈夫です」
治癒士さんは金髪の綺麗な女の人で、どうやらエアリスくんの顔見知りのようだった。
「セリーナ、助かる」
「いいのよ。怪我の状況は?」
「あぁ、まず――――」
二人が私の首や頭について、そして首輪についても何やら話し込んでいる。暇だ。
私は勧められたソファに座って足をプーラプラするだけ。何やら専門的すぎて、会話に参加できそうもない。
「――――変ね」
「あぁ。状況が合わないんだ」
なんの状況だ。私にはなんも分からんぞい。ぼーっとしすぎてて、二人の話も聞いてなかったし。
「とりあえず、怪我の治癒を先にするわよ」
「ん、頼む」
エアリスくんタメ口なんだ。なんかいいな。
うむむ? もしや私は羨ましいのか? 嫉妬? んんんん? なんかよくわからん感情が、お腹と頭の中で渦巻いてて、モヤモヤする。
「先に首から治癒するわね」
治癒士――セリーナさんが私の首に手をかざすと、全身がほんわりと温かくなった。そして徐々にではあるけれど、なんでか身体が重たく感じる。
これが疲れたりするってやつなのかな?
「治癒士は、その人が持っている治癒力を、魔力によって引き上げているんです。私の能力で治癒しているわけではないのです。身体に無理をさせて治癒させているようなものなの」
「だから疲れたり眠くなる?」
「ええ。気分が悪くなったらすぐ言って下さいね」
「はい」
首の治癒を終え、全身がなんとも言えないほどに怠い。うとうとしてしまいそうで、頬をペシペシと叩いて眠気を散らした。
次に頭を治癒するから、ソファに寝そべるように言われた。後頭部だからうつ伏せでと。
ふかふかのソファにうつ伏せとかさ、普段でも寝るよね? 治癒の効果なのか全身がぽかぽかするし、寝るよね? 一瞬で眠ってしまった私は、悪くないと思いたい。