14:顎ヒゲ vs 便器
有人状態で『トイレ』と唱えたら?
結果、何も起こらなかった。
トイレから出て、結果報告。
すると、青年騎士さんから疑問が出た。
「他人の場合は結果が違うかも?」
「おぉ、確かに」
「犯罪者でやるか?」
「中に篭もられたら最後ですよ?」
どうやら、私のトイレの防御力は結構高いらしい。
「お前や俺で数分は掛かるだろうな」
「ええ。しかもレベルアップする可能性を考えると、壊せるかも怪しいですね」
ほへーんと聞いていた。
そして、トイレというか、便器の素材を思い出す。
「便座や蓋って、プラスチックなんで、すぐ壊れそうですけどね」
「ぷらすちっく?」
――――え?
プラスチックないのか。プラスチックの説明とかできないぞ? 石油精製物くらいの記憶しかないぞ? あとは樹脂的なヤツもあるよね、くらい。
「んえぇぇと、気張れば女子でも割れるくらいの素材?」
「柔らかいということですか?」
「うーん? 柔軟性はあり、衝撃を逃がしやすいけど、熱や曲げる力には弱め?」
たぶん、そんな感じでいいと思う。ぶっちゃけ、衝撃にも弱そうな気はしてるけど、比較的に、とか付け加えてたら大丈夫だろう。だって、この世界になさそうだから!
「座面の下の部分は違う素材だよな?」
顎ヒゲがトイレの中に入って、剣の柄で便座をコンコンと叩いていた。
「あ、はい。便座本体は陶器です」
「「陶器!?」」
陶器がないのかと焦ったけど、皆が驚いたのは陶器でできていることの方だった。もう当たり前のことだったけど、陶器で出来ているのって当たり前じゃなかったんだっけ?
え? ここいつの時代なの? いや、水洗トイレないからそりゃそうなのかな?
諸々の不安を浮き沈みさせていたときだった。
ガシャァァァンと高らかに鳴り響く、大きなお皿が割れたような音。お皿、陶器…………おい、まさか? とトイレを見ると、顎ヒゲおっさんがやらかしていた。
「っ…………すまん」
「ゼファー! なんてことをっ!」
トイレ、壊れました。
便器本体の三分の一が崩壊してました。
流子ちゃんの異世界転移おトイレ物語、ここで終了です。
――――おぉ、まじか。
流石の顎ヒゲゼファーさんも平身低頭でひたすらにあやまって来た。エアリスくんは激怒で剣を抜いちゃってる。
「いやまぁ、さっきも言いましたが、陶器なんで割れることもありますよ」
「だが、コイツは陶器が割れるものだと分かっていてやった。その年齢で、やっていいことと悪いことの判断もできないのかっ!」
「っ、すまん」
エアリスくんがぶちギレちゃってるけど、私はそんなに慌ててはいなかった。
というか、怒ってくれる人がいると、妙に冷静になれるよね? エアリスくん、怒ってくれてありがとうね。
「トイレ」
とりあえずトイレを収納。
「消して出したら、直ってるかもですし?」
「それは創造している場合でしょう? もし何処かから呼び寄せているタイプの魔法だったら?」
――――おぉ。
そのパターンは考えてなかった。
誰かん家のトイレを召喚してた? って、それなら私って、めっちゃ迷惑ヤツじゃん。
「……トイレ」
ドキドキしつつ、トイレを呼び出した。