132:ごちそうさまでした。
あれを彼氏と呼んでいいのか……いや、そう呼ばなかったら、バレたときに壁際にドン詰めされそうだ。ちょっとヤンデレというか、グイグイだもんな。拗らせてるもんな。
「あ、もしかしてエアリス様?」
「お…………おん」
「ウッソォォォ!? きゃー! やだぁぁ! エアリス様なの!?」
お母さん、前のめりすぎです。あと、ビンスくんに知られているのか。なぜだ? そんなバレバレな行動取った覚えないぞ。
「ギルドで噂になってましたよ」
「え? なんて?」
「あの堅物エアリス様が微笑んでいたとか、手繋ぎデートしていたとか、いろいろ」
「……ぬぐぅ」
噂になるほどか。なんだこれ、ちょっと恥ずかしい。
テーブルにゴンと頭を打ち付けて下を向いていたら、一番下の妹ちゃんが「おなかいっぱい? ねむねむ?」と聞いてきた。可愛い。癒される。
お腹はわりといっぱいになりましたです。眠くはないですはい。
「あらあらあら、初々しいわぁ! お父さん思い出しちゃう!」
ビンスくんたちのお父さんは、一番下の妹ちゃんが生まれる直前に事故でこの世を去ったらしい。それからビンスくんはずっとみんなのお父さんになろうと頑張っているのだとか。
お母さんがにこにこして良い息子でしょう? と聞いてきたので、高速頷きした。いやほんと良い息子だよ。あと、気が長いね。そこそこ覚えの悪い私に、根気強く何回も教えてくれるんだよ。まじで良い子だよ。
「学校の先生とかに向いてるなぁって。ちょっとナメられそうではあるけど」
「そうなのよぉ! 甘いのよねぇ」
「でも締めるとこはちゃんと締めますね」
「そうそうそう! もぉ、背伸びしちゃってぇ!」
「母さんっ!」
お母さんがキャッキャと笑ってはビンスくん文句を言われていた。
久しぶりに騒がしい感じでのご飯は、親戚の集まりみたいで凄く楽しくて、ちょっとだけ寂しさも覚えてしまった。
「ごちそうさまでしたー」
ビンスくんの家を去り際にそう言ったら、一番上の妹ちゃんに「それはこっちのセリフでしょ」って突っ込まれて、みんなに笑われてしまった。
そしてちょっと照れ気味にまた遊びに来いとも言われた。なにこれ可愛い。
ビンスくんに明日の予定を聞くと、空いているとのことだったので、また明日も頼んで良いか聞くと、もちろんだと頷いてくれた。
明日もがんばろう!
今日覚えたことは、帰ってもう一度復習だ。でないと、寝たら忘れる自信がある!