13:有人状態で唱えたら?
とりあえず、血を洗い流したところで、この場所から離れることになった。
ジャイアントラットの死骸などに他の魔獣たちが寄ってくると面倒とのことだった。
――――他の魔獣。
ちらりと見たジャイアントラットは、カピバラくらいの大きさで、肉食獣のような牙を持っているバカデカいネズミだった。
異世界、怖い。こんなのに襲われたら死ぬし。
大草原で遭遇しなくてよかった。
「ルコ」
エアリスくんが馬の横に立ち、こちらに手を差し伸べてきた。
馬に乗るのを手伝ってもらいつつ、また魔法についての話を再開した。
「レベルアップした時の状況?」
「ええ」
盗賊たちにトイレを攻撃されていたときだった。こちらから特に何をしたとかではない。
ただただ、トイレに篭っていた。
「攻撃を加えられることによって、経験値が上がって行くのかもしれないですね」
「ヴンっ、へぶっ……」
馬が走り出した瞬間、やはり会話は無理になった。舌噛むわコレ。
「あははは。すみません」
エアリスくんは、なぜか妙に楽しそうだった。
馬を一時間ほど走らせたころ、数人の騎士さんがトイレを申し出てきた。
「助かります!」
「いえいえー、どうぞ」
三人目が入ったタイミングで、ふと気になった。
「そういえば、中に人が入ってるときって、コレを唱えたら、消えるんですかね?」
「「……」」
トイレを指差しつつ、エアリスくんたちに聞いてみた。一応『トイレ』とは言わないようにして。
「やってみりゃいいじゃねぇか」
「そっ…………いや、しかし」
顎ヒゲはとりあえずやっちゃえ派、エアリスくんはかなり悩んでいた。
可能性として、今やると中にいる騎士さんがモロ出し状態でトイレのみ消える。
騎士さんもろとも消える。
そもそも消えない。
「モロ出し状態はナシですね」
「ええ」
それなら、私が中に入って唱えたほうが早いという結果になった。
エアリスくんはちょっと渋い顔。私ごと消えたらどうするんだと。
でも思うんだよね、本人の能力が本人に危害は加えないでしょって。
「…………稀にありますので」
――――あるんかい!
「まぁ、でもやってみますよ。なんか大丈夫そうな気がするんで」
騎士さんが出てきたので、入れ替わるようにトイレの中に入った。
ドアを閉め、鍵を掛け、よしっと気合を入れる。
「トイレ――――」