125:取捨選択なし。
冒険者のお兄さんいわく、文字を教えるだけでこんなにお金がもらえて、ご飯まで食べられるのは、たちの悪いいたずらの可能性か、後から何やら追加で要求を出される可能性があるのだとか。
「ギルドを通してる依頼なのに?」
「それでも、裏で何やらやるやつはいるもんだよ。罰金とかのペナルティがあってもな」
「ほへぇ」
恐ろしい世界だ。
そして、私にはそんなつもりは毛頭ない事を伝えると、それならとお兄さんが依頼用紙を掲示板から剥がした。
お兄さんが受けてくれるのかと思ったら、依頼用紙をペラペラと振りながら、高く掲げた。
「おーい。このガキに文字教えてやれるやついるかー!? まじでこの金額と飯付きだとよー!」
そんなでかい声で言うな。『ガキ』と。ガキじゃないのよ……訂正が大変だし気まずいのよ。とてもとても気まずいのよ!
きえぇぇぇぇ! と叫びそうになっていたら、男の子と言えそうな年齢の冒険者くんがおずおずと手を挙げた。
「あの、妹たちによく文字を教えてるので、そういったのは得意です」
「おー。ペーペーにはありがたい依頼だな! お前、受けてやんな!」
お兄さんが勝手に依頼を受ける冒険者を決めてしまった。
この状況じゃ取捨選択は出来ないパターンじゃ……まぁ、いいけど。
「えっと、ルコと言います。よろしく?」
「うん。よろしくね、ルコちゃん。俺はビンスだよ」
「ビンスくんね! で、どこで勉強しようか?」
「おいおい、その前に二階で依頼を受ける手続きだ」
「「あ……」」
あんまりにも話が纏まっちゃったから、このまま移動してしまいそうだった。
二階で依頼の手続きをしたら、受付のお姉さんに頑張れと応援された。
ギルドを出て、ビンスくんのおすすめである図書館の勉強部屋を借りることに。図書館には、一人用の貸個室や複数人用の貸部屋などがあるらしい。
「部屋代は俺の報酬から引いて――――」
「え? 私払うよ?」
「……ルコちゃんって貴族? 服もそんな感じだし……」
そんな感じとはどんな感じだ。あれ? 商人さんは平民が使うような服って言ってたけど。もしや平民の服にもランクがある?
「普通にペーぺーの冒険者だよ。この前デビューしたばっか。文字が書けないし、読めないからすっごく困ってるの」
「全く読めないの?」
「うん! 数字も読めない」
「あ、もしかして、異世界の人? 最近話題になってた」
「どんな話題かわかんないけど、たぶんそれ」
ビンスくんが少し悩むような仕草をした。もしや教えてもらえない方向になりつつある!?