118:しがらみとかいろいろ。
エアリスくんが深呼吸をして、気持ちを落ち着けているのが分かる。膝の上で握りしめられている手には、まだ力が入っていた。
あんまり握り込むと、手のひらに爪が刺さってしまう。力を抜いてという思いから、そっと手を重ねたら、触れた瞬間にサッと手を避けられてしまった。
「あ、ごめんね……」
きっと貴族とか王族とか、いろんな取り決めがあるんだろう。婚前交渉は一切禁止とかありそうだもん。
ちょっとこれはクーリング期間を設けたほうが良さそうだと思い、肩に乗せられていたエアリスくんの頭を撫でて、動くよと合図してから立ち上がった。
「今日は、もう帰るね」
「っ――――ルコッ!」
「…………なに?」
数歩進んだところで、後ろからエアリスくんに名前を呼ばれた。
振り返ると、エアリスくんの金色の髪が木漏れ日に照らされ、キラキラと輝いていてとても綺麗だった。
美麗な顔は泣きそうなくらいに歪んでいる。
「っあ……あの…………」
「ん? 無理しなくていいよ?」
「違……違うんです。お願いします、座ってください」
右手を彷徨わせながら差し出してくるエアリスくんが、あまりにも不安そうで、泣き出しそうで、なんだかお互いに考えていることがどえらく違いそうだなぁとなった。
ベンチに戻ってエアリスくんの隣に座ると、エアリスくんが慌てたように私の左手首をガッチリと握りしめた。『逃げないで』とでもいうように。
「逃げないよ」
「っ…………」
「戸惑わせてごめんね?」
エアリスくんが目を見開いて固まってしまった。どうしたのかと、目の前で手を振るけれど無反応。お手上げ状態である。……手は動かせないけども。
「いや私にはどうしようもないからさ? エアリスくんが決めてよ」
「な…………にを?」
「王族とかのしがらみがいろいろあるんでしょ? あ、人の手垢がついたものは無理派とかもあるか? 一定数いるっぽいよね」
「っ――――なんでそうなるんだ! 馬鹿にす……馬鹿にしないでください」
エアリスくんは真面目だなぁ。こんなときまで丁寧な言葉に言い直すなんて。
「……私の知らないルコのいろんな顔を見た男がいるのかと思うと…………どうやってこの世から消し去れるか、という黒い思考に塗りつぶされて……魔力が暴走しそうだったんです」
予想外に違う方向すぎてびっくりした。呪うのはやめなさい。魔力を暴走させるのもやめなさい。
つか、ただの嫉妬でメンタル崩すでないよ。騎士団って、こう、なんというか、メンタル強強なんじゃないの?
「ルコに関してであれば、メンタルはとてつもなく弱いと確信できます」
「そんなことに自信持たないでよ……」
「過去も未来も全て、欲しいんです」
「っ、おぅ、ぁんがと」
真顔でそんな事を言われてしまったら、本気で照れてしまうじゃないか。顔が熱いぞ。