114:認識の違い。
玄関先で三人と別れて、エアリスくんと歩き出したが、どこに向かっているんだろうか。
手を繋いだかと思えば、直ぐに指を絡めて恋人繋ぎにされてしまった。気に入ったんだな?
「ここから十分ほど歩いたところに大きな庭園がありま……あっ、お腹は減ってませんか!?」
「大丈夫だよー」
いろいろありすぎて、あんまり減ってない。あと、カバンの中にピタパンサンド入ってるから、お腹へったらそれ食べよう。
エアリスくんと手を繋いで王都内を歩いてると、黄色い声を出す少女たちや、ありえないものを見た! 感の人々とすれ違った。エアリスくんはいったいどういう扱いの人なんだろうか? そして、顔をめちゃくちゃ知られているのかな? それとも騎士服だから?
――――うむ、わからん。
「ルコ、あそこです」
薔薇のアーチと門のある場所を指差された。
周囲は黒い柵に囲まれていて、それだけだとかなり威圧感があるはずだけど、おしゃれに蔦を絡ませていて、ところどころに小さい薔薇っぽいのが咲いているから、なんだかメルヘンチックな雰囲気になっていた。
「植物園みたいな感じ?」
「ええ。日差しも柔らかいので、過ごしやすいと思います」
中にはカフェもあるらしく、そこにも立ち寄りたいと言われた。そこのスイーツもおすすめらしい。
ぽてぽてと庭園内を歩く。
あの花綺麗だね、あの木はなんだろう? なんて話しかけてもエアリスくんは気も漫ろな返事しかしてくれなかった。
「はぁ……もぉ!」
「ルコ?」
「面倒になってきた。ちょっとそこら辺に座るよ」
「えっ……はい」
通り掛かりにあった木の側のベンチに座る。木陰がちょうどいい感じで覆ってくれていて、わりと風もあるし、涼しい。
エアリスくんはなんのためにここに連れてきたの。話し合いか伝えたいことがあったんだよね? まぁ、あれ、付き合ってる付き合ってない的な問題が発端なんだろうけど。それらを怒涛のように伝えてみた。
「……っ! キスしました」
「そうだね」
「ルコも反応してくれました」
「まあ、しましたね」
「それが、お互いの気持ちを確かめあったことになるはずなのですが…………」
「ほむん?」
よくよく聞いてみると、こちらの世界ではあまり『じゃあ、今日からカレカノね!』的なあれはないらしい。ぬるっと付き合い始めると。そういえば西洋のどこかもそんなパターンだってテレビで見たな。
キスした日が、二人の一番最初の思い出というか、告白扱いなのだと。
「おおぉぉぉぉ」
「っ…………つたわってなかった…………」
エアリスくんがベンチで背中を丸めて小さくなっていた。なんだか可愛くて、頭をよしよしと撫でてしまった。