112:憧れの。
外壁門を通って王都に入り、みんなで冒険者ギルドに向かった。
道中、ゼファーさんを呼び出した内容を聞き忘れていたのを思い出したものの、結局は馬鹿力で済まされそうな気がした。
「あれ、別に本当に壊そうとしたわけじゃなかったんですよね?」
「…………おぉ、おお!」
「ほほぉん? 壊れるだろうなと分かっててやったんだ?」
「いや、そそそういうわけじゃねぇのよ。ちょっと欠けてもバレないかなぁと思いはしたが――――」
どうやら、便器の構造を知らなかったことによる不幸な事故だったらしい。
便座のあの形で中がぎっちりと詰まっているものだと思っていたそうだ。まさか空洞であんなに薄いなんて予想外すぎたと。
そこはエアリスくんも「確かに、空洞だったことには驚きましたね。どうやって形成しているのでしょうか」
と不思議そうだったから、完全ギルティ扱いはしないでおいてやろう、ということにした。
「本当に、扱いが雑だな。英雄だぞ?」
「剣聖父! もっと言ってくれ!」
「……その二つ名はちょっと。どうか、ダンと」
「ええ? かっけぇのに。俺も二つ名が欲しい」
確かに。『剣聖』ってなんだかカッコイイ。
「ゼファーにもあるじゃないですか」
「あるの? 英雄?」
「いえ。破壊神です」
――――破壊神!
「そのまんまじゃん!」
「ええ。そのまんまですよ」
エアリスくんがくすくすと笑いながら由来を教えてくれた。
ゼファーさんは敵はちゃんと倒すが、周りにも甚大な被害を及ぼすらしい。
酷いときには、魔獣や盗賊が荒らした量を上回るのだとか。
「うっわぁぁぁ、迷惑ぅ」
「ほんと迷惑ですよ。連帯責任で隊長である私も始末書を書かなければならないんですよ」
なにそれ、本気で迷惑じゃん。さすがゼファーさんだわ。そして、ダンさんはそんなゼファーさんの逸話というか迷惑話を楽しそうに聞いていた。
あー、この人って、本気でゼファーさんに憧れてるんだな。
なんだか、そういう世界って、いい。