106:筋肉ダルマの身体能力。
首チョンパ、恐ろしや……となっていたら、何があってもしないから! と怒られてしまった。
「いや、うん。そうなんだけどね。なんというか気分の問題で……」
「恋人にそう思われるのは嫌です!」
「「恋人!?」」
辺りが騒然とした。割と集まって固唾をのみ込んでいたらしい野次馬の冒険者たちさえ、ザワリザワリと何かを話している。
「おぉ。恋人……」
「いやまて、なんでルコさえも驚いていんだよ!」
「え……だって付き合おうとか、なんかそういうのはなかったし」
「「は?」」
じゃあ私たちこれから彼氏彼女ね! みたいなのはなくて、ただちゅーしただけだったし?
「るるるるルコッ! そういうのは二人で、ね? 二人で話し合いましょう!?」
「んー? うん」
まぁ、このあとにでも話すかなぁ。
「おいおい。俺の攻撃ターンの前にそういうの見せんなよぉ。力が抜けっだろ?」
「あ! ゼファーさん!」
「おん?」
ゼファーさんがやる気になることを言ってあげよう。
「ダンさん、ゼファーさんのファンで手合わせしたいんだってー」
「なっ! ルコッ! なんてことを――――」
「えっ、マジで? マジで? 剣聖父が? マジで?」
ゼファーさんめちゃくちゃ嬉しそう。ニヤニヤしながら剣を抜いて、腕をぐるぐる回している。その剣、スポッとか飛ばさないでよ?
「いんやぁぁぁ、殺る気でたわぁ」
今度はトイレの十メートルほど手前でピョーンピョーンと垂直跳びを始めた。
おっさんのくせに身体能力が高いなぁ。なんで一メートル以上飛び跳ねれてるの? 魔法?
「……ゼファーは純粋に体力ですよ」
「筋肉ダルマ?」
「はい」
「コラァ! そこっ! いちゃつくなよ。ったくよぉ……」
ゼファーさんがブチブチと文句を言いながら、剣先を地面につけたままズルズルと引きずってトイレに向かって歩き出した。
トイレ横壁の少し手前に立ち、剣を上段に構えてジャンプ。からの前回転。
まさかそれだけで、トイレの壁が爆発したように粉々になるとか思わなかった。
「……は?」
「なんで? 父、あれどうなってるの?」
「……わからん」
ダンさんは言葉を失いつつも、ラウちゃんの質問にどうにか反応していた。
ゼファーさんはにっこにこだ。
「思ったより壊れた!」
「……粉々よ? 粉々。ゼファーさん、魔法は使わないんですよね?」
「ほとんどなー」
「どうやったらこうなるの?」
気になることは直ぐに聞いておこう。解答してくれる相手の解答能力に不安を覚えるけども。
「おー、力いっぱい闘気を込めたらなるんじゃねぇ?」
「…………格が違いすぎる」
なぜかダンさんがベッコリ凹んでいた。