104:それぞれの覚悟。
声が聞こえてきた方を向くと、やっぱりいた。聞き覚えがめちゃくちゃあったもんな。エアリスくんと、ゼファーさんだよね。
エアリスくんが馬から降りてこちらに駆け寄ってきた。顔面蒼白だけど、どうしたよ?
「怪我は!?」
「んおあっ、ないよ、ちょ、んぶっ!」
グリングリン身体を回転させられ、顔をハンカチでゴシゴシ拭かれた。土煙で薄汚れていたらしい。ありがとうだけど、拭き方が雑いよ?
「あ! ラウちゃんどうなっ……うわぁぁぁぁ! すごっ! 刺さってるよ! 刺さってる! 壁に剣が刺さってる!」
エアリスくんをペイッと避けて、ラウちゃんのほうに駆け寄った。でもラウちゃんは、納得がいっていない顔をしていた。
理由を聞いてみると、完全に破壊するつもりで攻撃したのだと。かなりの魔力を使って。
「っ、父とね、魔力頼りじゃない戦い方の訓練してたの――――」
でも、今できる最大の攻撃は、多重バフで底上げしてからの高火力斬撃だから、本気でやった。そうしたら、その本気でさえも破壊できなかったのが、とてつもなく悔しかったそうだ。ラウちゃんが涙目になって、トテトテと走ってダンさんに抱きついていた。
「ははぁん。その二人が『剣聖親子』か。んでもって、その二人でも破壊は無理だったか」
剣聖親子とはなんぞや? と聞きたいがなんだかそんな雰囲気ではないっぽい。なぜなら、さっきの爆発やら何やらで、野次馬が集まりだしている。
ひと気のないところだったけど、けっこう遠くから見えていたらしい。
「エアリス、俺らも試そうぜ? お前も、やってはみたい、って話してたよな?」
「それは……そうですが」
「ルコの存在はどうせ直ぐにバレるし、いいだろ」
「……そうですね」
何やら私抜きで話がまとまっている。よくわからんが、このままトイレ攻撃チャレンジを続けるらしい。
まぁ、私はトイレ出すだけの人だし、どうでもいいんだけどね。
「ルコ、これと全く同じのあと二個出せ」
「…………出してください、ルコ様で!」
「ルコ、お願いします……」
困り顔のエアリスくんにお願いされると、ちょっと弱い。だってなんか可哀想に見えるんだもん。
「もぉ。トイレ!」
頭の中でトイレのタイプをしっかりと指定して、呼び出す。ちゃんと同じものが二個出てきた。
「どっちから行く?」
「……私から」
なぜに、みんな覚悟を決めた顔をするんだよぉ。それトイレだからね!?