10:トイレと魔力消費。
動物らしき何かのの断末魔を聞きつつ、便座に座ってボーっとしていた。ちゃんと、ズボンもパンツもはいてるけど、便座に座るとなんというか、全力で無防備な気分だ。
コンコンコンと軽いノックの後に、エアリスさんの声。
「ルコ、出ておいで」
「はい――――ギャッ!?」
イケメンの優しい声で呼び出しとか、マッハで出ていくに決まってるよね! で、トイレから出たら、血みどろ凶悪笑顔なヒゲの騎士が、トイレのドアからずいっと顔を出した。
「うるせぇな。耳がキーンってなったぞ」
「ちょ、血っ……!」
「ん? あー、返り血だ。なぁ、その手洗い場の水、くれねぇ?」
「あ、はい」
そう返事をしたものの、トイレの中のものを外に出せるのだろうか、と不思議に思った。
マグボトルに水を入れて、トイレから出る。
マグボトルを見ると、ちゃんと中に入っていた。
「あ、トイレの外に持ち出せるっぽいですね」
「自分の魔法なのに、自分で分かんねぇのか?」
残念なことに全く分からないのだ。トライアンドエラーを続けるしかないんだと思う。
「まぁいいや。とりあえず、水袋に水をくれ。拡張タイプだから見た目の十倍くらいは入る」
――――拡張タイプ!?
血みどろヒゲからポイッと渡されたのは、吸い口付きでマグカップくらいの大きさの革袋みたいなもの。水袋と言うらしい。名前、ダサくない?
でも、なんとも魔法のある世界っぽいアイテムに、ちょっとワクワクした。
「はい、お待たせしました」
「おお! あんがとよ!」
「あの――――」
自分も欲しい、と言う人が何人か出たとき、エアリスさんが騎士さんたちから私を庇うようにして、間に入り込んできた。
「ルコ、水は無限にあるものですか? それを使うことによっての魔力消費量は? そもそも、出し入れすることの負荷は?」
ずずいっと前のめりで聞かれても……ぶっちゃけ、一個も分からない。
何なら私が聞きたい。そして魔力消費量とかそういうのもあるんだ?
「あの、魔力とか消費とかどうやって判断するというか、見るというか、知るというか……えー、幼児に教える勢いで教えてください」
「ぶははははは! 潔い!」
ヒゲの人が爆笑したら、皆がクスクスと笑い出した。
反対に、エアリスさんは本気で心配そうな顔。
「目眩などは起こしていませんか?」
「え? はい、大丈夫ですよ」
ホッとしたように言われたのは、自分の魔力量をしっかりと把握せずに使いすぎると、最悪は死に至るということ。私のトイレ能力を見る限り、膨大に魔力消費をしていてもおかしくないとのこと。
――――トイレ能力って。
衝撃的であろう魔力消費の話よりも、能力名『トイレ』の扱いが、一番衝撃だった。