帰路の誤算
気を失った兵士には見覚えがあった。
水晶学園の正門で警備をしている兵士さんで間違いない。
水晶学園が襲われたというのは本当のようだ。
ウィリアム王子は憤りを隠せない。
「俺たちの留守中に水晶学園が襲われただと?」
水晶学園が魔物に襲われるなんてイベントは少なくとも乙女ゲームの『リルティア王国物語』のどのルートにも存在しない。
ゲームには存在しなかった魔道塔の魔物襲撃と同じことが起こっている。
『リルティア王国物語』は学園で勉学を研鑽しつつ攻略対象との甘酸っぱい恋愛をするだけの平和なゲームだったのにどうしてこうなったのよ?
暴力的な描写があるとしてもアイビスが引き起こすいじめとアイビスの断罪から処刑への流れぐらいだったけど、文字で軽く状況を流してるぐらいで一枚絵ぐらいしか無かったからね。
アイビスがいじめなんて下劣な事をしてない以上、平和に物事が進むものだと思っていたら、ロクでもない事ばかり起きる。
今は出来るだけ早く学園へ戻り学生に加勢しないとね。
ウィリアム王子はすぐに決断をした。
「チャールズ、申し訳ないが騎士の半分を率いて大魔道球を王都に返却して欲しい。その後、出来るだけ早く学園へ駆けつけて欲しい」
「わかった。兄貴はどうするんだ?」
「俺は残り全ての戦力を率いて、直接学園へと向かう」
「大魔道球の返却は俺に任せておけ。学園の救援は頼んだぞ、兄貴!」
*
建築士団と護衛の騎士さん少数を魔道塔の建築現場に残し、チャールズ王子とウィリアム王子の二部隊に別れて移動が始まった。
チャールズ王子が率いる大魔道球の送り届け部隊は特に問題は起こらないはず。
王都から伸びている道幅が広い街道筋な上に、大魔道球を運搬していることで魔物避けの効果があるからね。
危険なことは起こらないはず。
実際、魔道塔の建築現場への行きの道では魔物と遭遇することは殆どなかったわ。
むしろウィリアム王子の率いるわたしたちの部隊の方が問題が起こりそう。
基本的に通るのは田舎道で村々を繋ぐ寂れた道。
特に最後の村と魔道塔を繋ぐルートは使う人も少なく、ほぼ山道と言っていいぐらい道が荒れている。
魔物との遭遇もけっして少なくは無いだろう。
「この経路では道幅が狭く馬車を通すのは厳しいので、王都を経由して行った方がいいのでは?」と進言してくる騎士さんも居たけど、距離が圧倒的に短い直接経路を使うことにしたの。
直接経路を使う理由は簡単だったわ。
わたしはウィリアムに聞いてみたの。
「なんで荒れてるのがわかりきっている道を使うの?」
「山道を行った方が距離が圧倒的に短く半日早いからな」
「半日ぐらいなら王都経由で安全に行った方が良くない?」
「救援を待つ側からしたら半日は大きいだろう」
なるほどね……。
そういわれると半日の差は大きい。
わたしはウィリアム王子の選択に納得する
わたしたちは田舎道を進むことにした。
*
馬車で田舎道を進むこととなったわたしたち。
特に山道の走行が厳しかった。
道に大穴が空いていたり、路肩が崩れていたりで補修しながらの走行になる。
ウィリアム王子が騎士さんたちに指示を出す。
「急いで道の補充をするんだ。水晶学園では学生が俺たちの助けを待っているんだぞ!」
「はい!」
人海戦術で次々に山道が補修されるがウィリアム王子は浮かない顔をしていた。
「まずいな。想定していたよりも時間が掛かり過ぎている。やはり建築士団を魔道塔の建設現場に置いて来たのが敗因か?」
「騎士さんたち、本職でもないのにみんな手際よく作業していない?」
「確かに補修作業は手際いいんだけど、想像以上に道が荒れていて補修箇所が多過ぎる。せめて建築士団を連れてきていれば魔法で補修作業を一瞬で済ませられたのに」
「確かに補修一か所に掛かる時間はそれほどでもないけど、走っているよりも補修している方が長いぐらい補修ばっかりね」
「これなら忠告を聞いて王都経由で学園に向かえば良かったな」
ウィリアム王子は肩を落とし自分の判断に後悔していた。




