ウィリアム王子の名案
会議の場は一瞬でざわめきに包まれる。
「王都の防衛の要となる大魔道球をこの魔道塔に持って来たんですと?」
「王都の防衛はどうする気ですか?」
「無茶過ぎる!」
わたしも続ける。
「王都に大魔道球が無いのに王国の残存兵力を全てこの魔道塔の再建現場に持ってきちゃったの?」
わたしの発言を聞いてさらにとんでもない事実を知った会議メンバーは更に荒れる。
「大魔道球だけじゃなく王国の残存兵力も全て持って来たんですと?」
「今の王都にはなんの兵力も残ってないじゃないですか?」
「まさに丸腰! 紙の城!」
「兄貴がこの魔道塔の再建作業をしている間に、王都が敵に襲われたらどうするんだよ?」
これだけの非難の嵐の中、ウィリアム王子は落ち着き払い全く動じていなかった。
「それなら対策済みだ」
「対策ですと?」
そうなの?
「うむ」
ウィリアムは続けた。
「ランスロットを王城に配備したから大丈夫だ」
一瞬で司令部が安堵の空気に満たされた。
「なんだ、そうだったんですか」
「それなら安心ですね」
「魔物はともかく、他国が襲ってくる可能性は完全に消えましたな」
「ですなー」
「そんな対策をしてあるなら最初から言って下さいよ。驚かせないでください」
「王子も人が悪いな~」
なにこれ?
会議メンバーのランスロットへの信頼度が高過ぎ。
ランスロットってそんなに凄い人だったの?
正直彼を見直したわ。
ウイリアム王子は騒ぎが治まると続けた。
「ランスロットには王から王都に大魔道球が無いことを伝えて有るので何か起こっても死ぬ気で王都を死守してくれるだろう」
「それは名案です」
「さすが王子!」
でもわたしには、このランスロット頼りの計画はいつも緻密に計画を立て実行する王子らしくない賭けにしか思えなかった。
「王都が心配ならば魔道塔の再建と結界のメンテナンスを一刻も早く終わらせることだけを考えるべきだ。皆の頑張りに期待している」
ウィリアム王子はそういって締め、会議の幕を閉じた。
*
会議が終わる頃には、新たに増援に駆けつけたメンバーの為の住居となるテントが大忙しで建てられていた。
わたしは既に建っていたアイのテントに住むこととなる。
もちろんアイとの相部屋だ。
「アイはアイビス様と同じベットで一緒に寝るの楽しみです」
「テントは同じでもベットは別々だからね」
それを聞いたアイは世界の終わりが訪れたような絶望しきった表情をしている。
このテントは今朝までアイ一人で使っていたそうだ。
同じくウィリアム王子のテントはチャールズ王子と同じテントで相部屋。
相部屋と言っても普通の兵士なんかから比べると待遇は別格でかなりいい。
一般兵士となると、大部屋のテントに30人ほど詰め込まれ寝袋で地面に雑魚寝と言ったスタイルらしい。
地面に直に寝袋と言った野宿に限りなく近いスタイルなので、雨が降ったらテントと地面の隙間から滲んだ雨水で寝袋が濡れないのか心配だわ。
そんなことを心配しているとアイが食事に誘ってくる。
「アイビス様、アイとお昼ご飯に行きましょう」
「もうそんな時間だったのね」
アイに誘われて食堂に行くことになったわたし。
アイが食堂に入ったことに気が付いたチャールズ王子がアイを呼ぶ。
「わが愛しのアイよ、席を取っておいたからこっちにおいで」
アイはチャールズ王子のお惚気を相手にしてなかったけど席には着く。
わたしもアイと一緒に席に座った。
席自体は一般兵と変わらないけど、ここが王子たちのお決まりの場所になってるらしい。
席にはウィリアム王子とガレス騎士団長も座っていた。
ウィリアムがガレス騎士団長にわたしを紹介してくれた。
「こちらが俺の婚約者のアイビスです」
ガレス騎士団長はわたしを見て思い出したようだ。
「キミは学園の生徒の……。あれから剣の腕前は上達しましたか?」
「ええ」
「それでは一度手合わせをしてもらいたいものですな」
それはこちらからお願いしたいぐらいの願っても無い申し出。
即断で了解をしたかったけど、ここには遊びで来たんじゃないの。
「塔の再建作業が終わりましたら是非ともお願いします」
食事を終えたガレス騎士団長が去り際にポツリと言う。
「ところで、わたくしに弟子入りしたいと言った彼女は来ておりませんか?」
「マリエルのことですか?」
「そうそう、マリエルと言う名でしたな」
「彼女は学園で待っております。剣の腕はかなり上げたので期待していてください」
そもそも、魔道塔の再建現場に来ている一年生はチャールズ王子とアイ、そして後から来たウィリアム王子とわたししかいない。
ガレス騎士団長はとても残念そうだ。
「夏休みにマリエルが来るかと思ってずっと待っておったんですが、ちっとも来てくれませんので。どれぐらい腕を上げたのか手合わせしたかったんですがな」
マリエルは夏休みは学費を稼ぐ為にアルバイト三昧だったので王都に行く暇はなかったと説明すると、ガレス騎士団長は即断した。
「ならばわたし自ら学園に出向かねばなりませんな」
だがそのガレス騎士団長の願いは叶うことはなかった。




