魔道塔へ向かう
翌日、王都を立ったわたしたち。
王国の残存兵力を全て束ねた軍団は3日後に国境添いの魔道塔へ辿り着いた。
割と急いだので結構馬車の速度は速かったけど、呪いのコルセットはもう装備してないし乗り心地のいい馬車だったから乗り物酔いをすることも無くてそれほど疲れなかったわ。
ただ、騎士団員や魔導士団員の乗る馬車の乗り心地は最悪だったみたくて、ちょっとした石でも踏むと速度のせいもあって馬車が大きく跳ね上がるから乗員の乗り物酔いを誘発して、休憩の度に吐いてる人をちらほら見かけたわね。
馬車から降り立つわたしたち。
現場では魔物に襲撃された魔道塔は崩壊したままだけど魔道塔の周辺は静けさを取り戻し、魔物は一掃されて魔物たちの脅威は既にない。
「ウィリアム王子、お待ちしておりました」
「うむ」
現場の騎士団員はウィリアム王子とわたしたちを司令部へと案内する。
司令部と言ってもレンガ造りの立派な建物じゃなく、プレハブの小屋みたいな狭く簡易的な作りでテントよりはマシと言った程度だわ。
司令部の中には騎士団の団長のガレス騎士団長、魔導士団の師団長らしき人、学園で見かけたことのある2年生の先生らしき人、そしてチャールズ王子とアイが座って居た。
「兄貴、遠路わざわざよく来てくれたな! 疲れたろう」
「まあな」
素っ気なく答える王子に対し、アイはわたしの姿を見つけると満面の笑みで飛びついて来た。
「アイビス様!」
そしていつもの抱きつき。
いつもの様に抱きしめがきつい。
ミシミシと悲鳴をあげる背骨。
「ギブギブギブ!」
わたしはアイの背中を何度も叩き、この締め付けから抜け出そうと藻掻いているとアイが真顔になり締め付けから解放される。
「すいませんでした! アイはとんでもない事をしてしまいました」
今にも土下座をする勢いで平謝りのアイ。
わたしは土下座しようとするアイを押しとどめた。
ファンタジーで土下座なんてしたらファンタジー感ぶち壊しなのでやめようね。
「アイはアイビス様が王都でお留守番していると思い込んでいたので、こんな場末の小屋の中で再会出来て嬉しさのあまり全力で抱きしめてしまいました。申し訳ございません」
「悪気があってした事じゃないんだから気にしなくていいわ」
息が出来なくなって窒息死の死亡フラグが立ちそうになったけど、無事だったので許す。
そんなわたしとアイの騒ぎが治まったのを見計らって、ウィリアム王子は司令部を仕切り始める。
「皆、今まで現場の作業をしてもらって済まなかった。これからは俺が現場の監督をして全ての責任をこのウイリアムが持つから安心してくれ」
普通なら後から来たウィリアム王子がいきなり現場の指揮権を奪うと言ったらあまりよく思わない人がいて不平不満も出るものだけど、魔道塔崩壊の責任問題を出されては誰も責任を取りたくないのか異議を唱える者もいない。
誰も反対する者はおらず、ウィリアムが現場の責任者、すなわち魔道結界の再稼働のプロジェクトリーダーとなった。
王子はこういった場面で統べることに物凄く手慣れている感じがするわね。
さすが幼いころから帝王学を修めていただけはあるわ。
ウィリアム王子はこれからの作業方針を決める会議を始めた。
独善的な力を持っている王子と言っても、みんなの意見を聞き独断で決めないことに好感が持てる。
会議の出席者はウィリアム王子とわたし、騎士団の代表のガレス騎士団長、魔導士団の代表の女魔導士のモリガン魔導士団長、建築士団団長ウォルター建築士団長、水晶学院教師2年生学年主任ヨハネス、それと今までリーダーだったチャールズ王子とアイだ。
わたしとアイはどう見ても王子たちのおまけで会議に参加する必要なんてなかったんだけど、会議から抜け出すタイミングを失ったわ。
このメンバーで会議をして、これからの方針が決められることになったの。
*
ウィリアム王子が会議のメンバーに問う。
「作業はどこまで進んでいる?」
答えたのはチャールズ王子だった。
「魔物を排除し終わったところかな? 魔道塔関係の作業は全く進んでいない」
チャールズ王子、ぶっちゃけ過ぎ。
もうちょっと言い訳というか取り繕わないと!
「そうか」
でもウィリアム王子は怒らなかった。
聞く者によっては全く作業が進んでないように聞こえたので、ガレス騎士団長が慌てて補足する。
「今朝まで魔物の群れが波状的に襲って来ていたので、その撃退で精一杯でした」
ウィリアム王子は作業が全く進んでいなかったことを責めることはしなかった。
「今まで魔物との戦闘を頑張ってくれて感謝する」
それを聞いて安堵の表情を浮かべる会議に参加したメンバーたち。
全く作業が進んでいないと怒られると思っていたのに、感謝の言葉を貰って皆ウィリアム王子への好感度が上昇した。
ウィリアム王子は復興計画書と書かれた分厚い計画書を会議の参加メンバーに配った。
いつの間にこんな厚い計画書を書いたのよ?
凄いわね。
わたしのウィリアム王子への評価がますます上がったわ。
ウィリアム王子は資料をめくりながら説明を始めた。
要約すると魔物に襲われて崩壊した魔道塔の再建予定地を騎士団と魔導士団が護衛し、建築士団によって再建。
塔を再建し次第、魔道塔最上階に王都から持参した超大型魔道球を設置し広範囲な結界を展開。
結界の中には魔物が入って来れないので、その間に魔力切れとなった魔道球の魔力を再チャージをするという作戦らしい。
「以上は単なる机上の計画であるが、きみたちなら絶対に達成できるだろう。ぜひとも頑張って欲しい」
「頑張ります!」
「やってみせますとも!」
やる気のみなぎる会議の参加メンバーたち。
ただ、一人だけは違った。
魔導士団長のモリガン魔導士団長は青ざめていた。
「この大魔道球の出処はどこでしょう? この計画書によるとこの範囲をカバーする魔道球はリルティア国には一つしかないと思うのですが?」
「これは王都を守る大魔道球だ」
それを聞いたモリガン魔導士団長は青ざめた。
「王都の結界が消滅したとなると、我々が作業している間に王都が魔物や敵国に襲われたら……」
「なんですと!」
防御力皆無のノーガード戦法じゃない!
わたしたちはとんでもない事実を聞かされてしまった。




