魔道塔事故
魔道塔のことを話している生徒に聞いてみたけど、あくまでも噂レベルの話で詳細は全く知らないとのこと。
根拠のない単なる噂なのかな?
でも、2年生が魔道塔のメンテナンスに行っていることを知っているわたしは全くの根も葉もない噂とは思えない。
二年生の事故の真偽を確かめる為に、わたしはこの学園の実質的なNo.1の実力者で情報を掴んでそうなウィリアムを探すことにしたわ。
教室、寮、ラインハルト小屋、職員室と探すけど、どこにもいない。
最後に訪れた職員室の先生に2年生の事故のことを聞いてみたけど「ウィリアム王子の姿は見ていないし、そんな事故の情報も入っていない」と言われ少しホッとする。
事故に遭った2年生なんていなかったんだ。
わたしがホッとしていると、校長室に先生が呼ばれウィリアム王子の激しい声も聞こえてきた。
「居るじゃない!」
先生を睨みつけると申し訳なさそうに頭を下げた。
「ウィリアム王子に生徒には話すなと止められてたんだ」
ウィリアム王子の怒声が職員室にも響く。
「魔道塔でなにが起こったんだ?」
普段のウィリアム王子が見せない厳しさだ。
先生について校長室に入ると、校長先生が大慌てで資料をめくり確認していた。
「魔道塔が突如現れたモンスターの大群に襲われて倒壊したようです」
「被害状況は?」
「魔道塔の崩壊により死者負傷者多数。学生のみならず騎士団、魔導士団にまで被害が出たようです」
噂話は本当でとんでもない事が起きたようね。
ウィリアム王子はメモを取り話を続ける。
「モンスターはどうなってったんだ?」
「モンスターは騎士団と魔導士団が中心となって撃退、現場の混乱は収まって既に常の状態に復帰とのことです」
「そうか」
王子の鋭い眼光に肝を冷やし冷や汗をかく校長と、報告を聞き考え込むウィリアム王子。
王子はポツリと言った。
「こんなことになるなら、俺の提案で学生の派遣などするべきじゃなかったな」
それを聞いた校長は必死にフォローする。
「でも、それですと、魔道塔の耐久度が持たずに結界が破られる事になってしまいます」
「現に結界は破られてるだろう」
ウィリアム王子に論破された校長はなにも言えなくなってしまった。
悪くなった場の空気を変えるべくウィリアム王子が指揮を取る。
「起こったことを悔いても仕方ない。これからどうするかだな」
「はい!」
「書簡を書くので、早馬を出して王国に連絡を取ってくれ」
「わかりました」
自分の父親を超える年上の校長に臆することなく指示を出しているところを見ると威厳たっぷりで次期国王第一候補と言ったところ。
凛々しくて更に惚れそう。
「俺も支度が出来次第、王国に向かう。そしてアイビス、俺と一緒に来て欲しい」
「王国にですか?」
わたしが王国に行く用事なんてあったかしら?
「王国に向かうついでに、おやじに婚約者のアイビスを正式に紹介するいい機会だ。ついて来てくれ」
ウィリアム王子の親への挨拶か~。
前回会った時はお父様が一緒だったので一人で会うのは初めてね。
婚約なんてイベントは前世でも発生してないイベントなので初体験で緊張するわー。
でも、ちょっと待って……。
ウィリアム王子のおとう様って……こ、国王だよね?
王子に婚約者として国王に紹介されると聞いて、わたしは手足が震えて汗ダラダラだ。
*
わたしは焦りまくりだ。
ウィリアム王子が馬車と護衛を揃える間に、着替えて来いと言われたからだ。
着替えの理由は王様との面会。
ウィリアム王子の婚約者としての王様と顔合わせが有るからだわ。
クローゼットをひっくり返すわたし。
普段、学園の中では学生服で過ごしているので、ドレスなんて数えるほどしか持っていないので選ぶのは簡単だ。
派手でも無く、地味でもないフォーマルなドレスを選んだわ。
着替えはもちろんアイに手伝って貰う。
フォーマルなシーンに着ていくので普段は使ったことのないコルセットで身体を絞る。
馬車に乗るからコルセットで締め付けて酔ったらどうしようとか心配はあるけど、国王へのお目通りなのでコルセットを使わない訳にはいけない。
アイにしっかりとコルセットでタプンとしたお腹を絞ってもらったわ。
「アイ、思いっきり絞っちゃって。全力でね」
「どこかにお出かけですか?」
アイはわたしの背中に足を掛け遠慮なくコルセットの紐を絞る。
「ぐげっ!」という下品な悲鳴が出るのを我慢しつつ耐えたら鏡の中のわたしは腰回りが半分ぐらいになっている。
わたしもなかなかのスタイルじゃない。
「王国まで出かけてフォーマルなパーティーに出ることになったのよ」
本当は婚約報告だけど、嘘は言ってない。
「アイもついて来てくれるわよね?」
アイは大喜びして快諾してくれると思いきや、答えは違ったの。
「アイは用事があるので一緒に行けません」
「そうなの?」
アイとはリルティアの世界に来てから離れることが無かったのですごく不安ね。
いや、不安というよりもアイと離れるのは寂しい。
アイも寂しそうな素振りを見せる。
「アイも別れたくないです。でも、魔道塔で事故が起きたらしくチャールズ王子と応援に行ってくれとウィリアム王子に命令されたのでアイビス様と同行することは出来ません」
「アイと別れるのは心細いな」
「アイも心細い。でも心配はしていない」
心配してないってどういうことだろう?
馬車で移動中に大盗賊団に襲われたら……とか考えないのかな?
「ウィリアム王子と一緒なら大丈夫。ウィリアム王子は強い」
どうやらこの前の試合で二人が戦ったことで、アイにウィリアム王子の腕前への信頼が生まれていたようだ。




