二学期始まる
日本では4月が新学年の始まりだけど、欧米では9月が新学年の始まりなのはみんなも知ってる常識だわよね?
日本の学校の新学年も海外留学がしやすいように世界標準に合わせて9月にしようって活動もあったけど、学年の始まる時期はやっぱ桜が咲いてないとねってことで実現には至ってないみたい。
欧米の学年の9月始まりは相当昔かららしくて、欧米では猫の手も借りたいぐらい忙しい農業の繁忙期の春夏の新学年を避けて、休耕期の秋冬に子どもたちを勉強をさせる為に秋に学校が始まる様になったと言われてるわ。
でも、日本の学年始めは4月。
農業国家だった日本にしては学年始めが農業の繁忙期後の秋始まりじゃないのは腑に落ちないわよね……?
おまけにリルティア王国物語の学年始めも4月で腑に落ちない。
納得できなかった、わたしは色々調べてみたわ。
まずはリアル世界の学年始めね。
日本の学校の学年始めが世界標準の9月始まりじゃなくて4月始まりだったかと言うと理由があったのよ。
実は欧米の政府の会計年度は国によってバラバラなのよね。
フランスやイタリアみたいに1月から始まるところもあれば、アメリカみたいに10月から始まるとこもあるの。
江戸時代が終わった後の文明開化の日本が参考にしたのは当時の最先端の国家である大英帝国ことイギリス。
イギリスの政府機関の会計年度が4月だったから日本もそれに倣って4月にしたのよね。
別に政府の会計年度が4月でも学校は行政機関とは関係ないんだから9月始まりにすればいいじゃんと思うじゃない。
でも当時の日本の学校は私立学校が少なくてほとんどが国立で、学校は政府の機関みたいな物だったからね。
その流れで日本の学校も4月始まりになったらしいの。
リアルの学校が4月に学年始まりになった理由はわかってもらえたかな?
次はゲームのリルティアの学校の話。
リルティアはどう見てもヨーロッパ風の国を舞台にしてるゲームだから新学年も9月始まりが正しいと思うんだけど、当時リルティアを開発してたゲーム会社もシナリオライターも開発スケジュールがパンパンでいっぱいいっぱいだったから4月の学年始まりのおかしさに誰も気が付かなかったらしいわ。
実際西洋風の学園が舞台になってても、4月が学年始まりの乙女ゲームってもの凄く多いからね。
日本のゲーム会社の作ったゲームだから4月が学年始まりで、夏休み明けの9月が2学期でも気にしないし気にしちゃいけない。
ゲームのリルティア王国物語で気になって調べたことはこんな感じだったわ。
ゲームだからと割り切って納得するしかない。
気にしたら負けよ。
*
で、新学期が始まったわたしたち。
夏休み中もアイはずっと一緒だったし、ウィリアム王子とチャールズ王子とは2日前に再会の挨拶と現況報告は済ませていたので、朝の登校時はいつもと変わらない日常風景。
教室に着いた時に見たクラスメイトたちの容姿の変化を見てると成長を感じられて清々しい気分になるわね。
休み前と違って大人びた雰囲気の生徒がちらほらいて、友だち同士の会話も弾んでいる。
まあわたしに再会を祝う友だちなんていないんだけどね。
ウィリアムが獰猛な番犬の様に男女を問わずわたしの周りに近づくクラスメイトに睨みを利かして威嚇しまくっているので友だちなんて出来る訳も無い。
教室に着いた時に感じた清々しい気分も担任の先生が来て出席を取る頃には薄れていつもの日常に戻ったわ。
そして、なにごとも無くお昼休みを迎える。
食堂でいつものメンバーのウィリアム王子とチャールズ王子、アイとわたしでご飯を食べていたら血相を変えたブラッドフォードがわたしたちの席に飛び込んできた。
「俺の彼女のマリエルが居ない!」
ブラッドフォードは全速力で走って来たのか息絶え絶えに早口でまくし立てる。
マリエルはブラッドフォードと付き合っていないし、彼女でもない。
なにを言っているのかさっぱりわからない。
わたしは飲み水を差し出して、落ち着かせる。
「どうしたの?」
水を飲み干したブラッドフォードは息を吐き、少し落ち着いたのか詳しく話し始めた。
「俺、師匠との夏休みの修行の成果を見せるべく、マリエルのクラスに会いに行ってみたんだ」
マリエルはわたしたちと違って下級貴族クラスだったわね。
ブラッドフォードは下級貴族クラスまでマリエルに会いに行った、と。
「でも居なかったんだ」
「すれ違いになって、マリエルに会えなかったと」
「違う!」
違うの?
ブラッドフォードはわたしに通じる様にさらに一呼吸置いてから話を続ける。
「周りの女子に聞いてみたんだけど、どうやら今日は学校に来てないみたいなんだ!」
「そうなの? 風邪でもひいたのかな?」
レイクシアからの旅路は短くは無いので、旅の疲れが溜まって新学期早々体調を崩して休むこともあるかもしれない。
それに頑張り屋さんのマリエルのことだ。
夏休みのバイトと魔法の特訓を頑張り過ぎて疲れ過ぎてダウンしたのかもしれないわね。
でもブラッドフォードは首を振る。
「違うんだ。寮に戻って来てないんだよ」
マリエルを心配する気持ちが顔に滲み出ているブラッドフォード。
絶望した表情で話を続ける。
「クラスメイトや女子寮に住む生徒にマリエルのことを聞きまくってみたけど、今日は学園に来ていないし、寮でもマリエルの姿を誰も見ていないんだ。俺、マリエルのことが心配で心配で居ても立っても居られない! 俺、どうすればいい? アイビス!」
となると、レイクシアからの帰りの馬車を手配出来なくてまだ戻って来れてないか、旅路で馬車の故障のトラブルに遭ってまだ学園へ戻って来れてないのかな?
わたしは昼食に付いてきたフライドポテトをブラッドフォードの口に放り込む。
「マリエルの行方を知っていそうな人に心当たりがあるから、なんか食べて落ち着きなさい」
「本当か?」
ブラッドフォードは安心したのか食堂のカウンターに行って大盛のランチを買って来てパクついていた。
*
食事を終えたわたしたちは早速マリエルの行方を知る人のもとに向かった。
「ところで、マリエルの行方を知っている人って誰なんだ?」
「レイクシアでマリエルの魔法の訓練をしていたクリスくんよ」
「俺のマリエルにちょっかい出してた野郎か」
教室に着き、クリスくんの顔を見たブラッドフォードはいきなり胸倉に掴み掛る。
「お前がマリエルを隠してるのか!」
「か、隠す?」
いきなりブラッドフォードに胸倉を掴み掛られたクリスくんはなにが起こっているのか理解できずに怯えつつ、頭の上に疑問符が何個も浮かんだような顔をしている。
「マリエルに振られたからって逆恨みして監禁でもしてるんだろ!」
「え? えっ?」
さらに頭の上の疑問符が増えるクリスくん。
そりゃ、告白もしてないのに振られたと言われても訳がわからない。
わたしたちは慌ててブラッドフォードをクリスくんから引き剥がす。
「ブラッドフォード、あんたなにしてるのよ!」
なんでいきなり喧嘩売るのよ!
あんたは狂犬かよ!
「それに、どう見ても他人に物を聞く態度じゃないわよね」
わたしがたしなめるとブラッドフォードは謝罪した。
「す、すまん。彼女のマリエルのことを思ったらつい手が出てしまった」
しつこく言うけど、マリエルはブラッドフォードの彼女ではない。
わたしはクリスくんに謝りつつマリエルのことを聞いてみた。
「マリエルさんが学園に帰って来てない? それは無いですね」
クリスくんは自信あり気にそう言い切った。
「間違いないの?」
「だって昨日、僕と一緒の馬車で学園街の駐馬場まで帰って来ましたから」
学園迄戻って来たのは間違いない。
「それは間違いないのね?」
「昨日の日没ちょっと過ぎの話です。それに街から学園の敷地まで一緒に歩いて来ましたからね。女子寮と男子寮で別れるとこまでは一緒でしたよ」
「そうなるとマリエルが迷うところなんてどこにもないじゃない」
事件か事故に巻き込まれたのかも……。
マリエルの身になにかが起こったんじゃないかと胸騒ぎがした。




