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アイビスの帰省⑩

 わたしはウィリアム王子に謝り続けるけど、ウィリアム王子は怒りが収まらずに寮に戻っても全然言い訳を聞いてくれなかった。


 ここでウィリアム王子に捨てられるなんてことになったら後ろ盾が居なくなって断罪フラグへまっしぐら。


 なので真剣に謝り続けたけど中々許してくれない。


 男の人って、他の男の人と一緒に居ただけでここまで怒るものかなって気持ちも心の隅に生まれつつあったわ。


 普通、あんな目に遭ったらわたしの身を一番に心配してくれるよね?


 それなのにウィリアム王子はわたしの身の心配をせずにずっと怒ったままだ。


 やっと口を聞いてくれたのは3日目になってのことだった。


「ウィリアム、話を聞いてよ!」


「わかった。言い訳を聞いてやろう。あの半裸の男と抱き合っていた理由を説明してみろ」


 ウィリアムの部屋のソフアーでテーブルを挟んで向かい合う。


 アイは廊下の外で待ってもらっているのでこの部屋には二人だけだ。


 わたしはあの日の状況の説明を始めた。


「抱き合っていたのは完全にわたしのミスというか、暴漢に捉えられていた炭鉱から上手く逃げ出せたので二人で祝福し合ってただけなのよ」


 ウィリアムは「ふうむ」とつぶやいて頷く。


「あの男と抱き合ってた理由はわかった。でもあの男はなんで半裸なんだよ! あの男といかがわしいことでもしてたんじゃないのか?」


「してないわよ! そんなことをするならビリーくんは半裸じゃなく素っ裸になってるはずよ」


「それでは、あの男が半裸になっていた答えにはなっていない」


 その理由ならもう何度も言ったじゃない。


 昨日、一昨日とウィリアムは聞いてくれなかったけど20回ぐらいは言ってるはずだわ。


「服に呪符を仕込んでたのよ」


「服にだと? 呪符ならポケットから取り出すだけじゃないか!」


「そうじゃないの。今回みたいに拉致をされた時でも逃げ出せるように服の生地の間に呪符を縫い込んでたらしいの」


「じゃあ、これで説明してみろ」


 ウィリアム王子は机の上にボロ布を投げた。


「これは……」


「炭鉱の牢屋で発見した服らしき物だ」


 昨日ビリーくんが着ていた服の残骸で、どう見ても端切れ布にしか見えなく服の形を留めていなかった。


 でもこの端切れで説明するしかないわ。


 パズルを解くように端切れを組み立ててどうにかシャツとズボンの裾に見れる形に組み上げた。


 それを使って説明する。


 あの暗がりの中で見ただけなので呪符がどう仕込まれていたのかハッキリと見たわけじゃないけど、説明出来なかったらウィリアムとの関係もここで終わりなのでわたしも必死だ。


「この布が2枚になっているところに呪符が織り込まれていたのよ。ズボンの方はこの布の隙間ね!」


 プレゼンは勢いが大事。


 言い訳もおんなじよ。


 わたしが力説するとウィリアム王子も納得せざるを得なかった。


「あの男の説明と一緒だな」


「あの男?」


「ビリーと言ったか? あの男を取り調べた時の話と一緒だな」


「ビリーくんを取り調べたの?」


「まあな。こういうことは白黒させないといけないからな」


 まさか、拷問で無理やり聞き出したのかな?


「酷い事はしなかったでしょうね? ビリーくんはわたしを牢獄から助け出してくれた命の恩人なのよ」


「ケガはしなかったと思う」


 これは拷問まではしなくとも、きつい取り調べは間違いなくしてるわね。


 あとでビリーくんに謝っておかないと。


「ビリーくんには色々と助けて貰ったんだから酷いことをしちゃダメじゃない!」


 わたしの苦情をウィリアムは聞き流して逆に質問してきた。


「ミノタウロス村でもあの男に助けて貰ったそうだな」


「そうだわ」


「その時もアイビスとあの男が抱き合ってたって証言を村人から聞いたんだが?」


 そんなことまで調べてたの?


 浮気を調べるにしても、嫉妬深過ぎる。


「それもわたしの身を庇ってくれた一貫よ」


「まあいい。浮気はしなかったんだな」


「するわけないでしょ。わたしには愛するウィリアムと言う婚約者が居るんですから!」


 それを聞いたウィリアムは言葉に詰まりながら話す。


「じゃ、じゃあ、その愛をこの場で証明してみろ」


 証明って……。


 そんな事を証明するって、愛してると言葉で言う以外にないじゃない。


「ウィリアムのことを愛しています」


「そうじゃない」


 するとウィリアム王子は顔を真っ赤にして俯いた。


「……しろ」


「なに?」


 聞こえなかったので聞き返すと、ウィリアム王子は大声で繰り返した。


「キスしろ!」


 キスしろって……そんなことで愛を証明するの?


 でも、それでウィリアムが納得できるのならするしかない。


 わたしは中身がアラサーなんだから、キスをするぐらい余裕よ。


 この経験豊富なお姉さんに任せなさい!


 わたしがウィリアムの唇にキスをしようとしたんだけど……。


 ヤバ……。


 わたしもリアルじゃキスなんてしたことなかった。


 経験ゼロの女からキスすることはハードルが高過ぎる。


 顔が真っ赤になって、ウィリアム王子の唇に目が釘付け。


 身体が硬直して、それでいて手足がガクガク震えまくりで身動き取れない。


 わたしが中々キスをしないでいると、意を決したウィリアム王子が手の甲を差し出してきた。


「ここに誓いのキスしろ! 俺だけを愛すと」


 唇じゃなく手の甲にキスって……。


 ウィリアム王子はおこちゃまね。


 一気に余裕の出たわたしはウィリアムの手を取り口付けをした。


「ウィリアム、これでいい?」


「ああ」


 そう言うとウィリアムはわたしを抱きしめてきた。


「絶対に浮気だけはしないで俺だけを見続けてくれ。俺はお前に裏切られた生きていけない」


「ウィリアムもね……」


 そして抱きしめ合うわたしたち。


 こうしてウィリアムとの初めての口づけを終え、ウィリアムの誤解がとけたのだった。

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