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アイビスの帰省⑥

 必死の形相で屋敷に逃げ戻ると、ビリーくんが来ていた。


「アイビス様、そんなに息を切らせてどうしたんですか?」


「町に行ったら『小麦不足をなんとかして!』と住民に追いかけられてね……」


 町の住民に追いかけられたのはトラウマレベルの出来事だったわ。


 それにしても、なんでうちにビリーくんが来てるんだろう?


「ビリーくんこそどうしてうちに来たの?」


「前々から小麦粉が異常な値上がりをしていておかしいと領主様に進言してたんですけど、市中から小麦粉が無くなったことで領主様から『どうなってるんだ?』と調査を命じられていたんです」


 町じゃ主食の小麦がなくなって暴動が起きそうだったからね……。


 ビリーくんは小麦粉を生産している村の代表者みたいな感じだから領主のお父様に呼ばれたのね。


 これは領主の娘としてどうにかしないといけない。


「とりあえず、町の住民が食べるパンも無くて困ってるみたいだから買い出しを手伝ってくれない?」


「別の町からの小麦粉の移送ですか?」


「王都まで買い出しに行くわ」


 コールディア領から王都まで馬車で片道1時間。


 王都なら潤沢に小麦粉の在庫があるのは間違いない。


 普段の生活では王都まで行くことはまずないけど、必要な物があれば十分に買い出しに行ける距離だわ。


「それにパンとかすぐに食べられるものも持ってこないとね」


「とりあえず小麦がなくなった原因の調査の前に騒動を治めるんですね」


「食べ物の恨みは怖いから、取り敢えず主食を確保しないとね」


 フランスでマリーアントワネットが食料不足で困り果てている住民を煽りまくったせいで革命が起きて断頭台に送られたぐらい食の恨みは恐ろしい。


 わたしたちは急ぎで王都に行ったわ。


「ビリーくんは街中のパン屋さんを回って、日持ちが良さそうなパンをかき集めてきて」


「はい。アイビス様はどうします?」


「輸送に使う馬車の手配と小麦粉の買い付けをしてくるわ」


「お願いします」


 ビリーくんはリアカーでパン屋巡りへと出かけた。


 さすがに一人じゃ馬車の手配と小麦粉の買い付けは同時に出来ないので、馬車の手配はアイに頼んだわ。


「アイ、馬車の手配をお願い」


「何台ぐらいですか?」


「とりあえず、輸送用を2台頼むわ。運転手付きでね」


「馬車の手配はアイにお任せ!」


 アイはそう言うと輸送ギルドにすっ飛んで行った。


 次はわたしの番。


 今度はわたしが動かないとね。


 小麦の買い付けを出来る問屋なんてわたしは知らない。


 でも、わたしにはコネがある。


 わたしはとあるお店を訪れたわ。


「お久しぶりね!」


「アイビス様、お久しぶりです」


 わたしが訪れたのは王都で有名なパティシエの『コフィティア』の店だった。


 コフィティアとは以前スィーツ対決をした時は(かたき)だったけど、今ではお互いの腕を認める好敵手(ライバル)だわ。


「アイビス様、新作スイーツの『アイビスロール』を試作したので食べいく?」


「ごめん、今はそれどころじゃないわ」


 わざわざスィーツ屋まで来て暇じゃないというアイビスを理解できないコフィティア。


「じゃあ、なんでわたくしの店に来たのよ?」


「パンを作れる小麦粉が大量に必要でね。荷馬車1台分ぐらいの小麦粉を用意して欲しいのよ」


「なんと……。そんな大きなケーキを作るの?」


「ケーキじゃないわ、住民が食べるパンよ。町から小麦粉が無くなっちゃってね。粉もの問屋を紹介して欲しいの」


 それを聞いてアイビスが住民の為にパン用の小麦粉を仕入れに王都に来たと察したコフィティアは胸を張る。


「それならこの王都No1パティシエのコフィティアに任せなさい!」


 すぐに問屋に連絡すると馬車1台分の強力粉を手配してくれた。


 丁度ビリーくんもフランスパンを山の様に大量に買い付けて戻って来て、アイも2台の馬車と一緒に戻って来たわ。


「みんなありがとうね」


 *


 大急ぎで町に戻ってフランスパンを配ったら取り合えず住民たちが落ち着いて騒動は終ったわ。


「これで騒動は治まったかな?」


 だがビリーくんは浮かない顔をしている。


「今日の騒動は治まりましたが、また小麦粉が無くなったら同じことが起きるでしょうね」


 主食が市中から無くなれば騒動になるのは当り前よね。


 わたしは買い付けた小麦粉の在庫が切れる前に、今回の騒動の原因を調べることにしたの。

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