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アイビスの帰省⑤

 昨日は竜王夫婦喧嘩(げんか)に巻き込まれてミルクを買えなかったけど、今日こそはミノタウロスミルクを買って最高のアイスを作るわ。


 と言うことで、アイと朝一番にやって来ましたミノタウロス村。


 朝一番だから売り切れてるわけも無く……、気合い入れ過ぎて来たの早すぎちゃったみたいで店の開店前。


 店にはミルクがまだ並んでなかった。


 すると店番のお姉さんが声を掛けて来た。


「昨日のお嬢ちゃんだね。また来てきてくれたのかい?」


「ええ、昨日は買ったミルクを全部あげちゃったので……」


「そうかい、今日のミルクは絶品だと思うよ。お勧めだよ」


 お姉さんはそう自信気に胸を張る。


「じゃあ、またこのケースに入るだけ下さい」


 開店時間になったのか次々に訪れる客たち。


 ミルクはものすごい勢いで売れて最後のお客さんは売り切れて買えなかった。


「売り切れか……」


 これってわたしがクーラーボックス満タンのミルクを買っちゃったせいだよね……。


 この村まではちょっと遠いけど足りなくなったらまた買いにくればいいやってことで最後のお客さんに何本か譲ることにした。


「あのー、良かったらわたしの買ったこのミルクを買ってもらえませんか?」


「必要だから買ったんだろ?」


「まあ、そうなんですけど、全部譲る訳にはいかないんですが必要そうなので何本かお譲りしますよ」


 最後のお客さんに譲ろうしたんだけど店番のお姉さんが止める。


「お嬢ちゃん、心配しなくていいよ。今すぐ絞って来るから」


「ミルアーネさん、すまんね」


「昨日はミルクが結構売れたお陰でいい物を沢山食べれたから、今日は絶好調なんだ!」


「じゃあ、しぼりたてを頼む」


 お姉さんは『ミルアーネ』さんて言うんだね。


 それよりも驚いたのはこのミルクは牛から絞ったんじゃなく、お姉さんのミルクだったんだね。


 そりゃミノタウロスミルクって言うんだから、ミノタウロスのお姉さんから採れても全然おかしくない。


 ミルアーネお姉さんが店の奥に入っていった間にお客さんと少し話をしたわ。


「今年のミセスミルクのチャンピオンのミルアーネさんのミルクは絶品でね、ここ10年ぐらいで一番の当たり年って言われてるんだ。あんたも飲んでみな。美味しすぎてほっぺたが落ちるぞ」


 なぜか自分のことのように自慢気に話すお客さんである。


「ミルアーネさんのミルクだったんだ」


 わたしはミルアーネさんが絞ってくれたミルクを一滴も無駄にせずに美味しいアイスを作ることを決意したの。


 *


 そしてお屋敷に帰ってアイスを作ったわ。


 お父様に食べさせたら涙を流して喜んでくれたの。


「コクがあってミルク感がものすごい、こんなに美味しいアイスは生まれて初めて食べたぞ! 愛娘(まなむすめ)のアイビスが作ったと思うとなおさらおいしいな」


 アイもアイスを食べると似たような反応をしている。


「アイビス様の作ったアイスは美味しすぎる。アイは一生このアイスだけを食べて生きていける!」


 アイスだけしか食べなかったら栄養失調で倒れるからやめなさい。


 お父様もアイもわたしのスィーツを絶賛してくれて嬉しかった。


 夏休みのいい思い出になったわ。


 スィーツを作ってここまで喜んでもらえるなら、悪い気はしないわね。


 もう少しスィーツを作ってみるのもいいかもしれない。


 と言うことで、わたしはまだ余っていたミノタウロスミルクでスィーツの定番中の定番のショートケーキを作ることにしたわ。


 日本じゃスポンジケーキに生クリームを塗りたくって上にイチゴを乗せたのがショートケーキだけど、世界では色々なショートケーキがあるみたい。


 元々はイギリス発祥でクッキー生地でクリームとイチゴを挟んだスィーツだったらしいんだけど、世界中の人が好き勝手に魔改造に魔改造を重ねていくうちにカステラを思い出させるしっとりとしたスポンジ生地にクリームを塗りたくってイチゴを乗せる今の日本式のショートケーキが生まれたそうよ。


 今でいうなんでもありのピザや寿司みたいな感じだと思うわ。


 まあ、元祖のショートケーキのイギリス式もサクサク食感でお菓子としては美味しそうだけど、ミノタウロスミルクを使ったクリームをメイン食材にするならやっぱりクリームを沢山使える日本式よね。


 ショートケーキを作るべく小麦粉を買いに町を訪れたんだけど……薄力粉がどこにも売って無い。


 薄力粉どころか小麦粉自体が全然なかった。


 パンを求める住民で商店街のパン屋はごった返していた。


「おい! パンを売ってくれ!」


「こっちにもパンをくれ!」


 パン屋の店員はパンを用意できないらしく、頭を下げまくりだ。


「原料の小麦粉不足で今日はもうパンをお出しできません」


 それを聞いて住民たちは黙っていなかった。


「パン屋でパンが無いとかあり得ないだろう!」


「小麦粉が値上がりしたら売るつもりで、どこかに隠してるんだろ? 早く出しやがれ!」


 暴動寸前とはこのことだ。


 パン屋の店主は必死に頭を下げていた。


「そう言われましても、急に小麦粉が品不足になって手に入らなくなったんです。店の中には小麦粉が指先一つまみも残ってない状態なんです」


 住民の一人が領主の娘のアイビス(わたし)が居ることに気が付いて詰め寄って来た。


「アイビス様、昨日からなにも食べてないんです。なんとかしてください!」


 それを聞いた住民たちはわたしに押し寄せてきた。


「アイビス様!」


「アイビス様! なんとかして下さい」


 ゾンビに襲われるスマホゲーのCMみたいな感じになって恐怖を感じたわ。


 身の危険を感じたわたしは慌ててその場を後にする。


 アイと一緒に屋敷まで全力疾走する。


「いったい、どうなってるのよ?」


「小麦不足?」


 アイも良く分からないみたいだけど何かが起こっていたみたいだわ。

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